「武蔵小杉」「武蔵浦和」「武蔵小金井」 なぜ“武蔵”のつく駅名は21個もあるのか?
関東地方には「武蔵」の名を冠した駅が合計21もある。東京が最も多く11駅、次いで埼玉と神奈川が5駅ずつだ。なぜこんなに多いのか。
資料不足の「武蔵」名
このような説明の一例として、以前、日本経済新聞に掲載された記事を引用してみよう。
「その理由は駅名を決める際のルールにある。JRでは旧国鉄の前の官営時代から、新たな駅名を付ける場合は、既存の駅名とは重複を避けるようにする原則があった。(中略)そこで考えついたのが、関東のかつての呼び方である「武蔵国」から「武蔵」をとって付ける方法だった」(『日本経済新聞』電子版2012年6月5日)
しかし、この「原則」も、いつ誰が決めたのかは不明である。つまり、現状を整理するとこうだ。
1:駅名の「武蔵」は旧武蔵国に由来すると考えられる
2:既存の駅名との重複を避けるために「武蔵」が付けられたと考えられる
3:根拠となる資料は残っていない
具体的な資料が示されないまま、このような説明が繰り返されている。なぜなのだろう。筆者(昼間たかし、ルポライター)がまず調べたのは、駅名改称の理由である。改称について研究した書籍に、地図研究家の今尾恵介氏の『駅名学入門』(中央公論新社)がある。この書籍のなかで今尾氏は、明治・大正期に駅名改称が頻繁に行われていたことを指摘している。
同書によると、駅名改称の最も古い例は、現在のJR北海道函館本線の
「南小樽駅」
である。