「生活保護受給者」は運転すべきでない? そもそも自動車は贅沢品か? ネットに渦巻く“終わりなき議論”を考える
生活保護制度はセーフティーネットの最後のとりでである。本稿では、生活保護制度利用者の自動車保有をめぐる論争の背景を紹介する。
制度利用と自動車の選択
冒頭からいきなりだが、以下は、生活保護制度の申請に関するやり取りである。
Aさん「自動車を持っていても生活保護を利用できますか」
福祉事務所「生活保護制度を利用する場合、自動車は原則として処分されます」
Aさん「仕事探しや就職活動に必要なので、使わせてほしい」
福祉事務所「Aさんの居住地にはバスも通っているので、相談しましょう」
Aさんの申請理由は病気だった。
大病を患い、入院した。郊外に住み、普通自動車を保有していた。経済的に困窮しており、生活保護制度の利用を検討した。Aさんは自動車を所持していたが、「処分保留」が可能であることを知らされ、リハビリに専念。努力の甲斐あって、外を自由に歩けるまでに回復した。
しかし、「自動車は原則として処分」の案内が気になり、申請をためらった。現在の仕事は警備業だが、復職はかなわず。次第に家賃の支払いが心配になる状況になった。郊外ではバスが数時間に1本しか走っていないため、買い物や通勤、友人との付き合いにはどうしても自動車が必要になる。
相談も可能だったが、Aさんは家賃滞納の不安と自動車を保有することへの不安から、別の福祉制度を利用して生活を立て直すことを選んだ。
生活保護制度はセーフティーネットの最後のとりでである。本稿では、生活保護制度利用者の自動車保有をめぐる論争の背景を紹介する。