デンソー「燃料ポンプ不具合」1245万台 問題の“深層”は結局どこにあるのか?

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デンソーが製造した燃料ポンプの不具合により、合計約268万台の車両がリコールされ、どの車両に取り付けられたか特定されていない燃料ポンプが5000個以上あることが判明した。

複数の真因

非晶(不具合品)は金型温度50℃で成形、結晶(正常品)は金型温度150℃ で成形。不具合品は初期膨潤速度が速いが、それでも正常品の最大値を超えるには200時間近くかかり、出荷検査では検出できない。結晶・非晶ポリマーの燃料膨潤挙動比較(画像:ダイセル)
非晶(不具合品)は金型温度50℃で成形、結晶(正常品)は金型温度150℃ で成形。不具合品は初期膨潤速度が速いが、それでも正常品の最大値を超えるには200時間近くかかり、出荷検査では検出できない。結晶・非晶ポリマーの燃料膨潤挙動比較(画像:ダイセル)

 開発段階では、故障モードに基づく設計審査(DRBFM)と呼ばれる手法で故障要因とその影響を推定し、設計、評価と製造に対策を反映して未然防止を図る。設計者にとっては常識である樹脂材料の「膨潤」や、初歩的な生産技術でもある「成形温度の管理」を見落とすことはない。

 しかし、真因はひとつではないことが多く、届出書にもある特殊な環境・使用条件の一部が見落とされていた可能性もある。

 また、デンソー製品の大半は、自動車会社の要求仕様に基づいてデンソーがすべてを設計する「承認図部品」であり、その詳細は自動車会社にとって「ブラックボックス」であるため、何らかの要因が見落とされていた可能性もある。

 あるいは、インペラ用樹脂や補強用繊維材料の調達先の変更、生産設備の経年劣化など、量産開始後の小さな「変更や変化」が影響している可能性もあるが、外注部品の情報はデンソーに届かないこともある。

 さらに、成型温度制御システムに「非定常な異常が発生」があった可能性もある。この場合、不具合発生の期間を把握することは難しく、幅を持たせる必要がある。

 また、特殊な条件が見つかったとしても、試験による試行錯誤で「市場回収品の特徴と一致する条件」を特定するには時間がかかる。

 NHTSAへのリコール届け出の年表によれば、最初に不具合の報告があったのは2019年6月で、複合再現試験によりふたつの原因を特定。最初のリコールが届けられたのは2020年1月だから、ここまでは遅くはない。

 ここからさらに要因を発見し、発生条件・時期を定量的に特定するには時間がかかるため、「疑わしい条件」を含めて判定された順にリコールが届けられた結果、17件になったと推定する。

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