ジェンダー平等について「もう聞き飽きた」というなら、男女で“通勤経験”が全く異なることを考えてほしい

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都市は必ずしも女性にとって安全に移動できる空間ではない。移動する人が「女性」とみなされることによって、モビリティの時間と空間に余分なリスクやハードルが発生することがあるからだ。

ママチャリの時代

ママチャリに乗る母親とこどものイメージ(画像:写真AC)
ママチャリに乗る母親とこどものイメージ(画像:写真AC)

「男性は仕事、女性は家事・育児」という性別役割分業は、日本社会では、高度成長期に形成されたといわれている。これは、大都市の郊外化が進み、住宅と職場の距離が広がった時期と重なる。

 その結果、住宅・郊外(第一空間)は女性の主なテリトリーとなり、職場・都心(第二空間)は男性の主なテリトリーとなった。通勤者の多くが男性で、彼らが仕事帰りにターミナル近くの繁華街に飲みに行く場合は、「第三空間」も男性のテリトリーとなる。

 一方、女性の主なテリトリーである郊外も、都市化によって空間的に拡大した。家事・育児・介護・パートなど多くの仕事を任されている女性は、それらを大急ぎで時間内に処理しなければならない。居住地域が広くなればなおさらだ。

 そんなときに頼りになるのが自転車だ。1960年代以降に普及し、後にママチャリと呼ばれるようになった自転車は、女性にとって「住宅と地域」という「第一空間」で生活を確立するための重要なモビリティだった。子どもや荷物をたくさん載せ、交通ルールも守らずに街中を疾走するママチャリの危険性に対する批判は多いが、そこに数々のジェンダー的役割が課せられていることを思うと、気の毒に思える。

 1980年代以降、「女性の社会進出」が進み、女性の就業率が高くなっていく。つまり、「第一空間は女性」「第二空間・第三空間は男性」という住みわけが解消されつつあることを意味している。

 しかし、女性は家事・育児・介護をしながら通勤しなければならないケースが多い。つまり、「女性の社会進出」とは、

・「第一空間」をせわしなく動き回りながら
・「第三空間」を経由して
・「第二空間」へ進出する

ことを意味するのだ。そうなれば、ママチャリのスピードはいよいよ鬼気迫るものになるだろう。

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