自動車ディーラーはぶっちゃけ「水素自動車」をどう考えているのか? 営業マンが積極的に勧めないかもしれない理由とは
元ディーラー目線から見た水素自動車
ここからは、自動車産業と水素について見ていく。市販車ではなくあくまで試作段階だが、水素が実用化される段階まで進んだ例を紹介しよう。
●モータースポーツで実用化されたエンジンがある
2023年は、水素エンジンが一般に認知された年でもある。それを象徴するのが、5月に開催された富士24時間耐久レースで、トヨタ自動車が液体窒素燃料を内燃機関で燃焼させて走る「液体水素GRカローラ」をデビューさせたことだ。ニュースでも大きく報道され、見聞きした人も多いだろう。クルマの燃料に新たなイメージを与えたニュースといっていい。
●往年の名エンジンも水素化されつつある
トヨタ以外のメーカーも水素を使ったエンジンを研究開発している。その一例がマツダの水素ロータリーエンジンだ。ロータリーエンジンは、クルマ好きなら一度は興味を持ったことがあるエンジンで、市販車への導入すべく研究されている。水素ロータリーエンジンの歴史は1991(平成3)年の東京モーターショーにさかのぼる。量産はされていないが、広島県と広島市が公用車として導入した過去もある。
次世代エネルギーとして注目されているものの、街中で目にする機会は多くない。販売側の視点も含め、今後の普及に向けた課題を筆者(宇野源一、元自動車ディーラー)がまとめてみた。
●現在、日本で新車で購入できるのは1台のみ
2023年11月現在、日本で新車で購入できる水素を燃料としたものはトヨタ「MIRAI(ミライ)」のみである。水素と酸素を化学変化させて電気を発生させて走行させる電気自動車だ。究極のエコカーだが、700万円(補助金を考慮せず)を超える高価格と、地域によって発生する燃料問題もあり、販売側が積極的に売り込むのは難しい。あくまで臆測だが、営業マンとしてはトラブルを避けるため、顧客から声がかからない限り積極的に提案したくないというのが本音なのかもしれない。
●インフラ整備は喫緊の課題
ガソリンのように水素を充填するには水素ステーションが必要だが、その数は圧倒的に少なく、2023年11月時点で全国に162か所(北海道・東北11か所、関東53か所、中部51か所、近畿23か所、中国・四国9か所、九州15か所)しかない。ステーションの数が少ないため、自分の生活圏にないと水素自動車の購入をためらうだろう。緊急メンテナンスで休業するステーションも多く、気軽に乗ることができない。
このようなことから、安全性の観点から水素ステーションを簡単に増やすことは難しいかもしれないが、水素を手軽に補給できるインフラを整備することが、水素自動車の普及につながるのではないだろうか。