「退職金の前払い」で給与アップ! 九州産交バスなどが業界初の取り組み、人手不足解消につながるか
九州産交バスと産交バスが10月24日、バス運転手が人生設計に応じて賃金制度を選択することができる新たな施策を導入したと発表した。
過去の前例
さて、これはどこまでうまくいくだろうか。先例を見てみよう。
有名な事例は、1998(平成10)年に松下電器産業(現パナソニック)が導入した
「全額給与支払い型社員制度」
である。
退職時の退職金の支払いを廃止する代わりに、年2回の賞与時に退職金見合い分を手当として支給する制度だ。
当時の導入の目的としては、退職金前払いによって従業員のモチベーションをアップさせ、個人の能力を最大限発揮してほしいということであった。
もともと退職金制度には税制上の優遇措置があるために、単純な損得計算では(あくまで定年まで働いたとして)基本的には得のはずだ。給与として全額もらった場合には、所得税や住民税の課税対象額が増えることになり、もらう側の実質の税負担は増えてしまう。
多くの人が「退職金前払い」
今いる会社に最後までいようと考えるのであれば、最終的にもらえる金額は退職金の方が多いことがほとんどなのだ。合理的に考えれば、皆退職金を選択しそうなものだ。
ところが、この制度が発足した4年後の2002(平成14)年には、当時の新入社員の
「約60%」
が、退職金前払い制度を選択したといわれている。これは行動経済学の法則でいえば、まさに「現在志向バイアス」つまり
「未来の利益よりも目先の利益を優先してしまう」
という心理から出た結果のように思える。人はそれほど「合理的ではない」のだ。