「日本を裏切るなんて」 インドネシア初の高速鉄道開業でネットにあふれる軽薄な書き込み、建設支援は中国も、真の敵は“ヨーロッパ”である
日本製保安装置ATS-Pの導入

日本からの新製車は、円借款で建設されたジャカルタ都市高速鉄道(ジャカルタMRT)向けとして、2018年に約20年ぶりに輸出された。しかし、それでもなお、地上側の一部設備は、運輸省からのごり押しで、KAIと同じヨーロッパ製(KAIの地上設備は運輸省の保有)となった。レールもUIC規格である。
日本の信号システムは、一部円借款を用いたジャワ幹線鉄道電化・複々線化事業によって、マンガライ~チカラン間約32kmに導入され、2017年から供用を開始した。それ以外は、シーメンスの独壇場である。しかし、この事業もさまざまな紆余(うよ)曲折があり、借款契約から完成までにおよそ17年もの年月を要した。
現在、この区間に日本式の保安装置ATS-Pを導入すべく、円借款事業、ジャカルタ首都圏輸送力増強事業として進められているが、運輸省からの横やりで、これまた前途多難な状況にある。
運輸省としては、2010年頃から、他国乗り入れを前提としたヨーロッパ式の保安装置の導入を検討している。日本と同じく、他国乗り入れが存在しない島国のインドネシアにヨーロッパ式の保安装置を導入するメリットはなく、それよりも高い安全性のもと、高密度運転が可能なATS-Pを導入した方が相性がよいのは明らかである。しかも、元々ATS-Pを積んでいた日本の車両がこれだけ走っているわけで、比較的容易に導入ができる。
それでも、運輸省がそれを拒むのは、運輸省内に多数の
「ヨーロッパシンパ」
が存在することにほかならない。ドイツを中心として、専門調査官等と称してインドネシア政府内に多数の人材を送り込んでいるほか、職員の研修や留学に多くの予算を投じている。日本のように汚職撲滅委員会の目を気にすることもなく、接待にも余念がない。
また、KAIはKAIで、保有機関車のほぼ100%のシェアを誇る米国、ジェネラルエレクトリック(GE)との間で、無線式移動閉塞(へいそく)信号システムの導入を検討していた。インドネシアの鉄道界で日本シンパと呼ばれる存在は、ジャカルタ首都圏の通勤電車オペレーターであるKCIくらいである。
しかし、運輸省、KAI、KCIのパワーバランスでいえば、KCIは運輸省、そして親会社のKAIに逆らうことはできず、心もとない。ただ、注目すべきは、この文脈のなかに、中国という存在がないということだ。