「公共交通の無料化」自治体の挑戦広がる 無人運転でなくても? 見えてきた効果とコスト感

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欧米の一部の国や自治体で広まりつつある、公共交通無料化という動き。実は日本でも取り組みを進めている自治体がいくつかある。全国初の「自動運転の無料バスが走る町」茨城県境町もそのひとつだ。

町内循環バスも頓挫した町が導入した「自動運転バス」 意外な財源が

境町内を走るナビヤの自動運転バス「アルマ」(森口将之撮影)。
境町内を走るナビヤの自動運転バス「アルマ」(森口将之撮影)。

 欧米の一部の国や自治体では、公共交通無料化の動きが広まっているが、日本でも取り組みを進めている自治体がある。そのひとつが、2020年11月に日本の自治体で初めて、自動運転バスの定常運転を開始した茨城県西部の境町だ。

 東京から約50kmの位置にある境町は人口約2.4万人。2017年に圏央道が開通し、境古河ICが開設されたが、鉄道は通っていない。よって町内の公共交通は、近隣のJR古河駅や、東武鉄道東武動物公園駅などへ向かう路線バス、およびタクシーに限られている。

 昔はこれ以外に町内循環バスがあったが、利用者低迷で運行終了となってしまった。町では代わりの交通が必要と考え、2017~18年度に地域公共交通網形成計画を策定すると、多方面からの意見やニーズを計画に反映させるべく、境町公共交通活性化協議会も設立した。

 その中から出てきたのが自動運転だった。たしかに当時、日本でも自動運転の実証実験が各所で始まっていた。導入には多額の資金が必要になるが、境町は2014年以来町長を務める橋本正裕氏の指揮のもと、ふるさと納税や太陽光売電による収入などで収益を大幅に拡大していた。

 たとえばふるさと納税は、町長就任前は年間6.5万円だったのが、2019年度は30億円を記録。関東地方で1位であり、その座を3年連続で守っている。

 橋本町長は、ソフトバンクの子会社で、自動運転の実証実験を国内各地で行ってきたBOLDLY(ボードリー)と交渉し、契約に漕ぎ着けた。町ではフランスのナビヤ社が生産する自動運転シャトル「アルマ」3台の購入費用や5年分の運営費用として5億2000万円の予算を計上した。

 町の財政規模を考えれば膨大だが、町議会で承認された。こうして2020年11月から始まったのが、公道での本格的な自動運転バスの定時定路線運行だ。当初は1路線だけだったが、今年8月からは東京駅と直結する高速バスの運行開始に合わせ、高速バスターミナルに乗り入れる路線を新設した。

 どちらも運賃は無料だ。境町が財源を確保しているためもあるが、運行を司るBOLDLYが、自動運転バスを「水平に動くエレベーター」と考えていることも大きい。