EV人気を手放しで喜べない、バッテリー「リサイクル」「リユース」問題という名の、根深いジレンマ

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EVの環境性能をフルに発揮させるための最大の障害は何か。それは、バッテリーをいかに経済的に効率よく製造し、廃棄するかということである。

中国EV市場の変化

自動車の「墓場」イメージ(画像:写真AC)
自動車の「墓場」イメージ(画像:写真AC)

 これは何を意味するのか。ここで、ある数字を挙げたい。それはEVバッテリーの年間廃棄量である。

 2021年、世界の廃車から9万6850tのリチウムイオンバッテリーが回収された。そのうち実に94%が中国で廃棄されたものだった。販売台数が多ければ廃車台数も多くなるのは当然である。これらのなかでリサイクル・リユースされた自動車の総数は、実は不明である。

 リサイクル・リユース事業の重要性は中国でも認識されている。しかし、その事業規模はまだ小さく、現実にはリサイクル品の再生処理能力が廃棄量に追いついていない。同様に、リユース品としてのリユースも大規模には行われていない。その結果、廃車から取り外された使用済みバッテリーの多くは、そのまま放置せざるを得ないのが中国の現実である。

 その一方で、これまで世界一のEV大国だった中国で、EV需要に大きな変化が現れ始めている。具体的には、2023年に入ってから、増加傾向が鈍化しているのだ。

 こうした市場の動きは、リチウムイオンバッテリーの生産に非常に大きな影響を与えている。フィナンシャル・タイムズの報道によると、供給過剰によりバッテリー素材価格が急激かつ顕著に下落しているという。

 具体的には、リチウムの市場価格は2023年初めから約70%下落し、ニッケルも同様に約40%下落、コバルトは同程度ではないものの、基本的に低価格で安定している。

 このため、バッテリーのリサイクルやリユースをビジネスとして展開することは、それに携わる企業にとって設備投資などの資本増強を回収するメリットが少ない。ビジネスとして展開すること自体が、企業にとって負担になりかねない。

 EV用のリチウムイオンバッテリーの需要減が原因なら、リサイクルが安定的な再販につながる保証はない。

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