JR東日本が強力ライバルであるはずの「航空会社」とタッグを組む切実事情
東京~秋田間などで、新幹線と航空会社は競合する。それでもJR東日本はANAと手を組む選択に踏み切った。いったいなぜか。
自社管内の宣伝が多くなるワケ

このように、JR東日本にとって、JR東海管内の観光地は
「最大のライバル」
のひとつといえる。
仮に都内在住者が観光目的地として京都を選択した場合、JR東日本の収入はほぼゼロになる(乗車券・新幹線特急券がJR東日本の駅で発券されれば、券面額に対して数%の手数料や東京都区内区間の運賃分配などは得られる)。
一方、JR東日本管内の観光地が選択された場合、JR東日本が収入を独占できる。航空会社と組んで、
「行きはJR、帰りは航空便」
という行程でも、片道分の運賃と特急料金の収入がJR東日本に入ってくる。このように考えると、少なくともJR東日本にとって、自社管内への観光誘客を図るうえで、航空会社と手を組むメリットは小さくない。
筆者(大塚良治、経営学者)はJR東日本を利用する機会に、同社の駅構内のポスターを観察するようにしているが、東北の観光ポスターが多くを占める状況がある。筆者が目にした限りでは、京都などJR東海管内の観光地のポスターはほぼ皆無で、最近では
・兵庫デスティネーションキャンペーン(DC)
・青春18きっぷ
のポスターが少しだけ掲示されていた程度だった。
JR旅客会社は、国鉄分割民営化にともない6分割のうえ、国鉄清算事業団が100%株主となって、相互の株式持ち合い関係を持たずに発足した。
各社は利益を増やすべく経営を進めた結果、本州3社とJR九州は完全民営化を実現した。反面、分割により、在来線では会社間直通列車の減少や、自社管内優先の施策強化につながった面もある。
JR各社はそれぞれ別会社であり、お互いの資本関係は株式持ち合いなどを除けばほぼないのであるから、自社管内の観光地の宣伝が多くなるのはある意味当然である。