新幹線建設と並行在来線「切り捨て」問題 背後に隠された複雑な政治的駆け引きとは?

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北海道新幹線の札幌延伸が進むなか、並行在来線の行方が問題になっている。一度はバス転換が決まった長万部~小樽間だが、本当に対応できるのかという疑問の声が上がっており、一度は決まった廃止計画自体を見直すべきだという意見も出ている。

絡み合った欲望

北海道新幹線(画像:写真AC)
北海道新幹線(画像:写真AC)

 結局のところ、

・赤字国債の増加を防ぎたい大蔵省(財務省)の方針
・JRが第二の国鉄になるのを防ぎたい政府の思惑

に、「それでも新幹線が欲しい」という欲望などが絡み合った末に生まれたのが並行在来線の切り捨てだったといえる。

 並行在来線廃止の前提が「政治決着の結果」とした上で、改めて考えなければならないのは、新幹線の経済効果が並行在来線を不要にするほどのものなのかということである。自民党が1984(昭和59)年に初めて在来線の廃止を提案したとき、その答えはイエスだとされていた。当時、自民党は三菱総合研究所に「新幹線建設に関する調査報告書」の作成を依頼し、

「新幹線建設による地方経済への波及効果は大きい。建設国債の償還期間(60年)の間に国税、地方税の増収によって、投資資金は十分回収できる」

としている。つまり、当初は、新幹線が開通すれば、並行在来線を廃止して不便になった以上の利益が出る。そんな前提で並行在来線の廃止が打ち出されていたわけである。しかし、現在開業している新幹線を含め、開業から60年で投資額以上の回収が見込める区間がどれだけあるだろうか。

 例えば、2004(平成16)年の九州新幹線の部分開通でJR九州から経営が分離された、肥薩おれんじ鉄道では、コロナ禍前の2019年時点でも営業利益は約7億円の赤字で、助成金により運営されている状態が続いている。沿線の鹿児島県阿久根市では、JR時代にはあった特急列車が廃止され、観光客も減少している。これは北陸新幹線によって同じく特急列車が廃止された長野県小諸市などでも起こっている現象だ。かつて東京とを結ぶ特急がすべて停車していた小諸駅前に、かつてのにぎわいはない。

 結局、並行在来線を廃止してでも新幹線をというのは間違いではなかったのか。

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