新幹線建設と並行在来線「切り捨て」問題 背後に隠された複雑な政治的駆け引きとは?

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北海道新幹線の札幌延伸が進むなか、並行在来線の行方が問題になっている。一度はバス転換が決まった長万部~小樽間だが、本当に対応できるのかという疑問の声が上がっており、一度は決まった廃止計画自体を見直すべきだという意見も出ている。

先送りされた整備新幹線着工

財務省(画像:写真AC)
財務省(画像:写真AC)

 この大胆な廃止論には党内から異論が噴出したが、最終的に党幹部間では

「所要の立法措置を講じて並行する在来線の廃止を決定するとともに、政府と党の間で、事業実施方式のあり方、国鉄再建監理委答申との関連などについて調整を進め、その結論を待って1985年8月をめどに着工する」

という合意にまで至っている。「所要の立法措置を講じて」という一文を付け加えることで、ひとまずは党内での廃止反対の意見を抑えたのである。

 しかし、国鉄の民営化が優先されたため、在来線の廃止を前提とした着工案は不可能とされ、整備新幹線の着工はJR発足後に先送りされた。この時点で、着工までにクリアしなければならない問題がふたつあった。簡潔に記すと、次のようになる。

・国の支出の増大(ひいては赤字国債の増大)を避けたい
・JRの負担増による第二の国鉄化を避けたい

 特に大蔵省は、赤字国債を増やすことになる新幹線建設を認めようとはしていなかった。1986(昭和61)年に大蔵省がまとめた試算では、次のように指摘されている。

・当時の運輸省の整備新幹線建設費5兆2300億円は、最終的にはこの数倍になる
・並行在来線がすべて廃止され、乗客がすべて新幹線に移ったとしても、新幹線5路線合計の乗客需要は1日1kmあたり1万2000人にすぎず、東海道新幹線の15万人、赤字の東北新幹線(4万1000人)、上越新幹線(2万8000人)を下回る

 東海道・山陽新幹線のように国が主導して事業を実施することは困難であった。そこで、問題を解決する方法として、次のような方針が打ち出された。

・上下分離方式を導入し国の支出を減らす
・並行在来線は廃止を前提としJRに負担を負わせない

こうして1988年9月、政府・自民党は北陸新幹線の最優先着工を宣言した。当時の負担割合は

・JR:50%
・国:35%
・地方自治体:15%

というものであった。

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