「パイロット不足」がこれだけ叫ばれているのに、簡単に増やせない根本理由

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パイロット不足は日本だけではなく、米国では欠航を余儀なくされたケースもある。不足しているなら募集すればよいと考える人は多いだろう。しかし、現状はそんなにうまくはいかないのだ。

「コミュニケーションスキル」がカギ

パイロットのイメージ(画像:写真AC)
パイロットのイメージ(画像:写真AC)

 自動操縦システムの発達により、パイロットの仕事はほとんどなくなると考える人もいるかもしれない。実際、軍事用の無人偵察機はすでに開発され、第一線で活躍している。しかし、旅客機のパイロットはどうだろうか。乗客の命を運び、目的地まで安全に飛行させるためには、自動操縦では補いきれない部分がまだまだ多い。

 特に、操縦技術を必要とする着陸に関しては、自動操縦には限界があり、相当な気象条件がそろわない限り、着陸は自動操縦に任せられないといわれている。

 一方、巡航中はパイロットが操縦かんから手を離す余裕があり、ふたり以上がコックピット内で談笑できる時間もある。自動化によってパイロットの仕事量が減っているのは紛れもない事実である。

 かつては航空機事故のほとんどが機体の故障によるものだったが、近年はヒューマンエラーによるものが増えている。ヒューマンエラーの多くは、乗務員同士や管制官とのコミュニケーションエラーによるものである。

 パイロットにとって操縦技術が最も重要なスキルのひとつであることに変わりはないが、近年はコミュニケーションエラーによる事故をなくすために、円滑なコミュニケーションスキルが求められている。特に航空業界では、円滑なコミュニケーションのために

「適切な権威勾配」

という概念が重要視されている。

 現代の旅客機では、コックピットに副操縦士と機長が乗っており、このふたりの間に「適切な権威勾配」を作ることが円滑なコミュニケーションのカギとされている。機長の権限が強すぎて、副操縦士が機長のミスに疑問を持つことが許されない状況は問題だ。逆に、機長と副操縦士の関係が近すぎると、「こんなところでミスをするはずがない、後でどうにかするのだろう」とミスを見過ごしてしまう危険性もある。お互いのミスを適切に注意し合えるかがカギとなる。

 一方、航空会社のパイロットはフライトの数時間前に初対面し、すぐにフライトすることが多く、短時間で良好な関係を築くことは難しい。短時間で適切な信頼関係を築き、嫌みなく互いのミスを指摘し合えるようになるには、コミュニケーションスキルが不可欠だ。

 これは一朝一夕に身につくものではなく、多くの人が苦手としている。特に副操縦士から機長に昇格する際には、コミュニケーションスキルが高く評価されるため、コミュニケーションスキルが昇格できない理由にされるケースもある。

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