率直に言う 運送業界の「多重下請け」は必要悪である

キーワード :
, ,
政府は運送業界の多重下請け構造にメスを入れるつもりだ。SNSでは、賛同する運送従事者も多く見受けられる。しかし、これは本当に政府が目指す物流革新へとつながるのだろうか。

安直な規制が運送業界を混乱

物流トラック(画像:写真AC)
物流トラック(画像:写真AC)

 政府は、

「物流事業者間の取引関係においては、多重下請け関係が存在するため、実運送事業者が適正な運賃を収受することが困難となっていることも多い」(日本の物流の革新に関する関係閣僚会議「物流革新に向けた政策パッケージ」、2023年6月2日)

と指摘した上で、発荷主・着荷主に対し、

「運送契約の相手方の物流事業者(元請け事業者)に対し、下請けに出す場合5から8まで(※運送契約の書面化、荷役作業等に係る対価、運賃と料金の別建て契約のこと)について対応することを求めるとともに、多重下請け構造が適正な運賃・料金の収受を妨げる一因となることから、特段の事情なく多重下請けによる運送が発生しないよう留意する」

と「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」において言及している。

 だが、これだけのことを荷主が行うのも簡単ではない。例えば100台のトラックを必要とする荷主の場合、すべて1次請けにしようとすれば、1台2台しか付き合いのない運送会社も含め、10社20社の運送会社と相対しなければならなくなる可能性が高い。

 だがこれは、荷主としてもとても手間がかかる。そこで大手物流企業を親請けに指名し、事務手続きや受発注などの手間をアウトソーシングするわけだ。同様のことは、親請け(1次請け)と2次請けの間でも発生、これが連鎖して多重下請け構造につながるケースもある。

・親請けになれる、あるいは直接荷主と取引できる能力がない運送会社の存在
・営業能力に乏しく、荷主と接点を持つ機会がない運送会社の存在
・中小運送会社との業務折衝を行う手間を、親請け物流企業にアウトソーシングすることで、業務の省力化を行いたいという荷主の都合

 他にも原因はあるのだが。いずれにせよ、こういった構造的課題を解決せずに、「下請けは2次まで」などと紋切り型の対策を打てば、発生するのは仕事を失って苦しむ中小運送会社と、トラックを確保できずうろたえる荷主を大量発生させるだけである。

 政府は、求貨求車サービスなどを充実・拡充することで、これらの課題解決につなげるつもりらしいが、果たしてそううまくいくものだろうか。多重下請け構造の解消に限らず、物流業界の不合理とする政府の基本方針は正しい。だが、そのやり方、すなわち

「物流革新に向けた政策パッケージ」

の内容については、よくよく注視していく必要がある。

全てのコメントを見る