率直に言う 運送業界の「多重下請け」は必要悪である

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政府は運送業界の多重下請け構造にメスを入れるつもりだ。SNSでは、賛同する運送従事者も多く見受けられる。しかし、これは本当に政府が目指す物流革新へとつながるのだろうか。

下請けしか選べない中小企業

物流トラック(画像:写真AC)
物流トラック(画像:写真AC)

「直荷主の仕事がほしい」

すなわち1次下請けの仕事をしたいというのは、多くの運送会社が求めることだ。多重下請け構造の是正と政府はいうが、そもそも下請け、ましてや3次下請け、4次下請けなど、多重下請け構造の下位である立場を、喜んで受け入れている運送会社は少ないだろう。

 忘れてならないのは、荷主には、運送会社を選ぶ権利があることだ。そして、ほとんどの荷主は「トラックとドライバーがいればどうにかなる」なんて甘い考えをしている運送会社との付き合いを望んではいない。

 大切な荷物を預ける運送会社である。きちんとした対応ができる、きちんとした体制があり、いざ問題が起こったときにはともに解決にまい進してくれる――そんなパートナーを求めるのは、荷主として当然である。

 だが残念ながら、国内に6万2000社強ある運送会社のすべてが、この条件を満たせるわけではない。だから、親請けである物流企業が、下請け運送会社の欠点を補うことで荷主の要望を満たすという状況が、現在の多重下請け構造の一因となっている。

 ただし、多重下請け構造の下位にある運送会社のすべてが、A社レベルのダメダメな運送会社(と、あえていい切ろう)ではないことは、誤解のないように強くいっておかなければならない。

 では、多重下請け構造の下位になってしまう運送会社とは、他にどんな原因があるのか。総じていえるのは、営業能力の乏しさだ。運送業界は、巨大な中小企業の集合体である。従業員数20人以下の会社が7割を超え、逆に従業員数が50人を超える会社は1割以下。従業員数が1000人を超える大企業は、わずか0.1%(79社)しかない。

 中小運送会社の場合、そもそも荷主(顧客)の数もごく少数の場合が多く、また何年何十年も、同じ顧客との取引を継続しているケースも少なくない。このような運送会社では、新規顧客開拓を行わないため、営業能力は皆無に等しい。

 ところがある日突然、(A社のように)何らかの理由で、取引がなくなったとする。営業能力がないわけだから、当然ながら直荷主を新規開拓することもできない。こういった会社がまず頼るのは、知己の同業他社である。

「仕事を回してもらえないか……」

頼った運送会社が、もし2次下請けであれば3次下請けに、3次下請けであれば4次下請けになるわけだ。

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