率直に言う 運送業界の「多重下請け」は必要悪である
筆者が体験した10年前の出来事

筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)は、多重下請け構造とは中小企業が多い運送業界の構造が生み出した“必要悪”だと考えている。つまり、多重下請け構造とは“結果”なのだ。
それにもかかわらず、構造を生み出す原因を解決せずに、
「2次下請けまでに制限する」(全日本トラック協会「トラック運送業における適正取引推進、生産性向上及び長時間労働抑制に向けた自主行動計画」、2017年3月9日記述分)
といった、結果だけを制限するやり方は得策ではない。
この理由を説明するために、筆者が運送業界における下請け構造の根深い問題を痛感した、あるエピソードを紹介させてほしい。
もう10年ほど前のこと。筆者は知己の物流関係者から、ある運送会社社長と会ってほしいと依頼された。その運送会社(以下、A社)は、東京23区内に自社倉庫を構えていた。といっても、築40年は超えているであろうその建物は、玄関のガラスドアにヒビが入り、ガムテープで補修されている始末。通された社長室に敷かれたじゅうたんは日に焼けて色あせ、ところどころが破れ、めくれあがっていた。
「仕事がほしいんです」
切り出したA社社長は、50代前半とおぼしき女性だった。聞けば先代社長の娘だという。
かつてA社は、地元に工場があった大手有名メーカーの専属運送会社として働いていた。当時は羽振りもよく、先代社長は地元の名士として地域貢献活動にも積極的だったという。
しかし、工場の海外移転にともない、A社の没落が始まった。しばらくは先代社長の顔で仕事を回してもらっていたが、それも徐々に減っていき、往時は100台を超えていたトラックも現在では十数台まで減っていた。
「そもそも、私は一般企業で事務員をしていたんですよ。ところがある日突然、A社を継がなくてはならなくなって……」
とA社社長。筆者はちょうど協力会社を探していたある運送会社(以下、B社)を紹介した。B社は親請けだから、A社は2次下請けになる。A社はしばらくの間、B社の下請けとしてトラックを動かしていた。
だがあるとき、B社の配車担当者からこんな連絡をもらった。
「A社ですけど……突然休むこともあるし、最近では自社じゃなくて、下請けのクルマを回してくるんですよ」
どういうことだろう。筆者はA社社長に事情を聞いたところ、
・B社の仕事はもうからない。
・だから、スポット案件で割のいい仕事があればそちらを優先している。
という。そして、こう付け加えたのだ。
「B社って、結局中抜きしているだけじゃないですか。下請けとして働くのがバカバカしくなったので、ウチも下請けをB社に回すことにしたんです」