韓国&台湾の「邦人救出」が極めて難しいワケ 4月スーダンの比ではない
邦人救出の最大障壁は「人数」
日本周辺の北東アジアは、北朝鮮の核・ミサイル問題、中国の軍事大国化と安全保障上の懸案が多い地域となっている。韓国と北朝鮮の朝鮮戦争はいまだに休戦状態にあり、理論上はいつ戦闘が再開されてもおかしくはない。そして、台湾有事の可能性も議論されている。
こうしたなかで有事の際の対応についても研究が進められている。武田康裕『在外邦人の保護・救出―朝鮮半島と台湾海峡有事への対応』(東信堂、2021年)は安全保障、地域研究、国際法や国内法の専門家の研究の成果である。このなかでは、朝鮮半島や台湾有事に焦点を当て、シミュレーションも行われている。
朝鮮半島や台湾からの邦人救出はこれまで紹介した事例に比べると難易度が飛躍的に上昇する。まず韓国、台湾ともに陸路を使った退避は、地理的に見て不可能であり、空路・海路に頼らざるを得ない。そして、最大の障壁となるのが
「人数」
である。
外務省は2022年10月段階で海外在留邦人数の統計を発表している。韓国に長期滞在している邦人は4万1717人、台湾は2万345人となっている。
さらに問題となるのが短期旅行客だ。韓国も台湾も人気の観光地であり、多くの日本人が渡航している。韓国観光公社、台湾交通部観光局の統計によると2023年4月に韓国を訪問した日本人観光客は12万8000人、台湾を訪問した日本人観光客は5万1851人となっている。
もちろん、この数字は変動がある。春休み、ゴールデンウィーク前であり、観光客が増加する4月の統計値だ。さらに増える可能性もあれば、減る可能性もある。韓国や台湾情勢が緊迫化すれば、渡航を控える観光客も多くなるだろう。
しかし、スーダンやアフガニスタンのようにある日突然事態が急変するということも十分に考えられる。ロシアのウクライナ侵攻のようにあからさまに国境に軍隊を動員しながら、長期間にわたってにらみ合いの後、いきなり侵攻開始ということも可能性としてはあり得る。
数万人、数十万人に及ぶかもしれない邦人の救出は、徐々に情勢が悪化しており、危機感を共有できているならば、渡航を促すことも可能だが、突然状況が変わり、一気に救出を行わなければならないという事態になったら、困難といえよう。