鬼怒川が衰退し、箱根が「一大観光地」であり続けるワケ

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神奈川県西部に位置し、日本を代表する観光地・箱根――。そんな箱根には現在、インバウンド(訪日外国人)が殺到しているが、インバウンド需要以前の箱根の“ドル箱”は修学旅行生だった。

箱根が好まれた理由

箱根(画像:写真AC)
箱根(画像:写真AC)

 修学旅行の歴史のなかで、箱根はどのような適地だったのだろうか。

 1952(昭和27)年に出版された浅井治平『修学旅行のあり方と指導法』(古今書院、1952年)という本のなかで、修学旅行先を選ぶポイントとして次のようなことが挙げられている。

1.風景のよいところ
2.郷土色の豊かなところ
3.史跡、懐古性の深いところ
4.動植物の豊富な変化の多いところ
5.地形の特異なところ
6.庭園や大工築物のあるところ
7.近距離にあるところ
8.四季を通じていけるところ
9.山地平原の人々は海岸に、海岸の人々は山地や水の美しいところ

それぞれの項目の説明のなかで、箱根が適地として何度も出てくる。いわく、

・鎌倉や箱根、日光などは史跡、懐古性の深いところとして標識的である
・箱根は大島、榛名などと並び複式火山の変わった地形が児童生徒の興味をひく
・宿泊する場合は温泉のような児童生徒の平素経験しない場所が望ましい

 日本修学旅行協会の専門誌『修学旅行』(現在も『教育旅行』と改題して発行)は、教育現場の視点から修学旅行を考える専門誌だった。その1960年1月号で、当時東京都教育庁指導部長だった斑目文雄は、箱根の優位性をこう書いている。

「容姿の点からいったら、北海道や九州にも箱根にひけをとらない美形がまだまだあることである。しかし、観光地にとってのロケーション(位置)ということは決定的条件である。(中略)箱根にくると、風景は次々とベルト・コンベア・システムで車窓に展開してくる。芦ノ湖、杉並木、関所跡、相模神社と風景のひとこま、ひとこまにむだがない。(中略)これだけのものがありながら、箱根は喧噪ではない。これはちょっとふしぎなことである」

 箱根は修学旅行先として、交通の便のよさや非日常を体験できること、文化的・教育的な目的など、多くの魅力があった。

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