物流クライシスは政府の「自作自演」か? 屈さず生き残るために、運送会社の代表は「原価計算力」を学べ

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「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスを乗り越えるため、今こそ求められているのが、運送会社の経営チカラ向上である。これなくしてドライバーの収入アップは実現できるわけがない。

まねすべきは「よい経営」

物流トラック(画像:写真AC)
物流トラック(画像:写真AC)

 運送会社経営者は、自身もトラックドライバーを経験していたりと、運送ビジネスには精通している人が多い。だがその反面、経営者として必要なスキルはきちんと学んでいないケースが多い。

 前話では、運送会社経営者のスキル不足により、運賃値上げ交渉が進まない背景を説明した。だが、運送会社経営者のスキルアップを図るのは、たやすいことではない。いまさら、経営スキルを学ぶ時間もモチベーションもないという運送会社経営者も少なくないだろう。

 だとすれば、課題解決には経営者のスキルアップを望むよりも、

「よい経営」
「健全な経営」

をまねするほうが早い。そのためのツールのひとつが、先に挙げた原価計算システムなのである。

 少し話がずれるが、経済産業省が2020年12月に発表した「DXレポート2」の話をさせてほしい。タイトルのとおり、本リポートは2018年に発表された「DXレポート」の議論をさらに展開し、日本におけるDX(デジタルトランスフォーメーション。ITの浸透によってもたらされる変革)推進の議論の礎となった、優れたリポートである。

 DXレポート2では、「協調領域」というキーワードがたびたび登場する。

「DXを個社だけで実現しようとするのではなく、競合他社との協調領域を形成することや、DX推進にあたり対等な立場で伴走できる企業とのパートナーシップを構築することが重要となる」
「企業は、今後のシステムの利用に際し、自社の強みとは関係の薄い協調領域とビジネスの強みである競争領域を識別するとともに、協調領域におけるIT投資を効率化・抑制し、生み出した投資余力を競争領域へと割り当てていくことが必要である 」

 運送事業そのものは、貨物の多様性同様、さまざまな事業形態が存在する。だが、こと運送会社の経営に関わる事業領域では、共通するモノ・コトが多数存在する。これを協調領域として、健全で優良な運送会社経営を実現するデジタルプラットホームを用いて、「よい経営」をまねするほうが、経営者個々のスキルアップを図るよりも早いだろう。

 誤解があるといけないのだが、筆者自身、原価計算や財務把握等が苦手でも、人として尊敬できたり、あるいは営業センスが卓越していたりするなど、優れた運送会社経営者をたくさん知っている。だが残念ながら、現在業界が直面している「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスに対抗するためには、それだけではダメなのだ。

 いくら人柄がよくても、運賃交渉が下手でドライバーの収入アップを実現できない経営者のもとで働くドライバーはかわいそうだ。そもそも、そんな経営者のもとでは、この物流クライシスを乗り越えられるかどうかわからない。

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