物流クライシスは政府の「自作自演」か? 屈さず生き残るために、運送会社の代表は「原価計算力」を学べ
輸送原価を把握していないという課題
さすがに、これは例外的なエピソードであり、過去の笑い話だと信じたい。
だが、前回の記事「物流ドライバーの“収入アップ”を阻む最大の敵 それは「運送会社の経営者」かもしれない」(2023年8月6日配信)で紹介したとおり、ある業界団体のアンケートでは、全保有車両の原価を把握している運送会社は
「4割弱」
しかいないという結果も得られている。
実際、筆者は「あなたの会社の4t車、1日あたりの原価はいくらですか」と聞いて、即答できた運送会社経営者や幹部には、ほとんど出会ったことがない。
なぜ、輸送原価を把握しなければならないのか。もちろん、「赤字にならないため」という理由もあるが、原価把握が経営のかじ取りにおけるスタートとなるからである。
ドライバーの収入アップを例に取ろう。ドライバーの収入アップを図るためには、まず運賃の値上げ交渉を行わなければならない。もちろん、トラック輸送ビジネス以外で収益を上げている企業や、コスト削減で収入アップの原資を生み出すこともできる企業もあるとは思う。
だが、経営基盤の弱い中小の運送会社において、このような運送会社は例外だろう。例えば、
「ドライバーの年収を50万円アップさせるためには、運賃をいくらにすればよいのか」。
この計算はかんたんではない。特に今は、「物流の2024年問題」があるからだ。
「物流の2024年問題」は、働き方改革関連法によってドライバーの年間時間外労働時間の上限が960時間に制限される問題である。だから、現在、年間残業時間が960時間を超えている場合は、
「960時間以内に収める働き方」
をした上で、年収50万円アップを実現するための運賃水準を考えなくてはならない。そのためには、
・トラック1台の1時間あたりの輸送原価
・ドライバーひとりの1時間あたりの輸送原価
が必要となる。
現状把握を行い、さらに労働時間を短縮するシミュレーションを行い、その上で適切な運賃を算出すること。これをエクセルで算出するのは(がんばればもちろん可能だが)かんたんではない。
だから、政府は2023年6月に発表した「物流革新に向けた政策パッケージ」において、「トラック輸送・荷役作業等の効率化」に必要なツールとして、
・バース予約システム
・車両動態管理システム
・配車管理システム
・求貨求車システム
などとともに、トラック事業者の価格交渉力強化のため(閣議決定内容での表現)
・原価計算システム
が必要であると指摘しているのだ。