「EVシフト」に揺れる自動車産業 ホンダの八千代工業売却が示す「業界ダブルパンチ」の厳しい現実とは
ホンダにとって重要な存在だった八千代工業を、なぜホンダは手放す決心をしたのか。そこには将来的な生き残りを賭けた、いわゆるサプライチェーンの大規模な改変計画があった。
EVシフトの「足かせ」に
ホンダにとって、現時点での企業のかじ取りに関する最重要課題は世界的な電気自動車(EV)シフトへの対応である。
そのため、近年では米国における韓国LGエナジーソリューションとの合弁による新バッテリー工場の新設に合意した。そのほか、EV関連のさまざまな協業に着手し始めている。直近ではBMW、GM、ヒョンデ、KIA、メルセデス・ベンツ、ステランティスとの協業で米国内での新たな急速充電施設ネットワークの整備に着手する旨の合意も発表された。
そうしたなか、優れた生産技術を備えているもののEVには直接関連がなかった八千代工業の様な存在は、言葉は悪いがやや
「足かせ」
になっていたということであろう。どのような業種でもそうなのだが、新たなステージへとビジネススタイルを変えるためには相応の資本が必要となる。
そうした場合、資金調達のためには自社の資産もしくは関連会社を売却することは珍しいことではない。以前から八千代工業が培ってきた小型車生産に関するノウハウはグローバル市場ではいまだ価値が高い。特にこうした車両が市場で高い人気を保っているインドの自動車産業にとってみれば、まさしく“宝”である。
EVシフトはホンダにとってみれば新たなステージを構築する上での基本的な第1歩。一方、八千代工業とマザーソンにとってみれば、既存のサプライチェーンと生産体制を強化するための最適解という意味で、両社の利害関係が一致した結果の売却だろう。
あのホンダが八千代工業を手放すとは……と業界全体が震撼(しんかん)したのは冒頭に記したとおりである。しかしその一方、数十年にわたって培ってきた信頼関係を覆せざるを得ないほど、近年の自動車業界は資本関係の変貌が激しいということでもある。