バスガイドは、なぜ「女性」ばかりなのか? 意外と知らない謎に迫る
戦後、その地位はさらに向上

このように、戦前既に「バスガイド = 女性」というイメージは定着していた。とはいえ、必ずしも女性でなくてはならないというわけではなかったようだ。
戦時中、バスガイドは一時消滅したが戦後になるとすぐに復活している。特に、話題となったのは英語の話せる外国人観光客向けのバスガイドである。英語が話せるバスガイドは待遇もよく(日本人向けガイドが月給1万2000円から1万3000円なのに対して、英語が堪能な場合は2万円。交通費も会社が負担)、一時は、スチュワーデスと並ぶ、女性の憧れの職業だった。
英語が話せるのであれば、男女どちらでもよいのではないかと思うが、女性が主流になった理由は、こうである。
「英語ペラペラのバス・ガイド嬢が、はじめて出現したのは昭和28年7月だった。それまでは、交通公社の外部団体である通訳協会の男子通訳たちが、仕事のあるたびごとにバス会社からお座敷がかかって出張するという状態だった。それでは能率も上がらないし、やはり案内役は女性のほうがよろしい、ということに」(『新潮』1956年11月号)
結局のところ「女性のほうが華やかに見える」という下世話な意識で「バスガイド = 女性」が常識となっていったようだ。
その後、経済復興を遂げた日本では会社や地域単位での団体旅行が盛んになる。この時代の団体旅行のメインは男性客であった。これも、「バスガイド = 女性」を固定化させていった理由といえる。
1956年(昭和31)年9月、労働省(当時)は、女性バスガイドに
・長時間労働
・過度なサービスの禁止
・労働基準法の順守
を求める通達を出した。なぜなら、宴会の席でバスガイドに芸者まがいのサービスをさせるバスツアー業者が出てきて、問題視されたためだった。
もともとは、女性のほうが華やかに見えるためにバスガイドは女性が好まれた。それが、この頃には、男性客を相手にするのだから、
「当然、女性でなくてはならない」
に変化していたわけである。
この妙な常識がようやく解消されたのは、2010年代に入ってからだ。この頃になると、地方のバス会社では男性をバスガイドとして採用する事例が散見されるようになる。前述のはとバスでも2019年に男性バスガイドの採用を始めている。
バスガイドに必要なのは乗客を楽しませる話術と、豊富な知識である。性別は関係ない。ジェンダーレス時代突入で、バスガイドの常識も変わり始めているのだ。