トラックドライバーの安全そっちのけ? 高速「80km制限撤廃」で置き去りにされる事故率と大きな疲労、このまま議論を進めて本当にいいのか
規制緩和と交通事故
大型トラックの制限速度の引き上げについては、次のふたつの意見が対立している。
・スピードを出すと危険だから、最高速度は80km/hにとどめるべき
・制限速度の違う車が同じ車線を走るのは危険だから、最高速度を上げるべき
このふたつの意見は相反するが、これまで前者がおおむね支持されてきた。
前者が過去20年ほど支持されてきたのは、制限速度が80km/hであるにもかかわらず、実際には100km/hで走る大型トラックが多く、それが事故の原因と見られていたからである。
実際、2000年代前半には大型トラックの速度超過による事故が多発しており、規制緩和などさまざまな要因が重なっていると考えられる。1990(平成2)年に貨物自動車運送事業法が施行され、規制緩和によってトラック運送事業への新規参入が急増している。
加えて、2003年には事業区域規制や運賃・料金の事前届け出制が廃止され、事業者間の競争が激化した。
競争の激化は値下げ競争につながる。収入の減少を補うためには、過大なスピードでもいいから貨物を速く運べばいいと考えられるようになった。また、この頃から荷主の要求は厳しくなった。当時の朝日新聞には、鹿児島県のトラック業界団体幹部の次のようなコメントが掲載されている。
「枕崎のカツオ、垂水のカンパチなど鮮魚は東京や大阪、名古屋にトラックで運ばれています。魚は2日目までに売るという原則がある。3日目では値段が10分の1に下がって商売にならない。だから時速100キロを超える速度で走っていることもあるようです」(『朝日新聞』2003年9月15日付朝刊)
「あるようです」というコメントは、無知を装っているが、荷主の要求があるからスピード違反はやむを得ないということを公然と認めているように受け取れる。
全日本運輸産業労働組合連合会が2002年に実施した調査によると、1万人のドライバーのうち
「29.2%」
が時速100kmを超えて運転していると回答しており、常習的なスピード違反がまん延していることがうかがえる。
ドライバーは低賃金で過重労働を強いられ、スピード違反をしてでも早く荷物を運ぶことを求められていたのだから、事故が頻発するのも無理はない。ドライバーに同情する。