進む「原子力船」開発 日本勢も参画 核融合炉・溶融塩炉搭載のコンテナ船は実現するか
核融合エンジンを採用することの危険性は?
DNVは核融合エンジンを船舶に採用する危険性についても評価しており、人命や財産に対する最も高いリスクとして「液体金属が漏れて水蒸気爆発を起こした後に水が浸入すること」や「機器の故障により蒸気が漏れること」を挙げた。ほかにも、商業上の最大のリスクとして、大量の冷却水の港への排出が受け入れられない可能性があることについても指摘している。
ジェネラルフュージョンはMTF方式の核融合実証プラント(FDP)を英国に建設することを発表しており、早ければ2025年に核融合炉の実証運用が始まる予定だ。
一方でコア・パワーは溶融塩炉(MSR)を大型船舶の動力源として活用する「船舶用溶融塩炉(m-MSR)」の1号機を2025年までに開発・製造することを目指している。
MSRとは核燃料としてウラン酸化物を混ぜた常圧の液体燃料(溶融塩)を用いる原子炉。常圧で運転されるため、原子炉を囲む圧力格納容器が必要なく、燃料は液体に混合された酸化物であるため、複雑で高価な燃料集合体も不要という特長を持つ。このため、従来の加圧水型原子炉(PWR)に比べてコストや安全面で優れているとされている。
コア・パワーはm-MSRの開発に当たり、米国政府からは開発資金の80%に当たる約1億7000万ドルの助成を受けているほか、次世代原子力開発企業のテラ・パワーや電力会社サザンカンパニーなどとも協力している。
同社のミカル・ボー最高経営責任者(CEO)は「大型船のあり方を大きく変えるのがm-MSR。燃料タンクも煙突も排ガスも燃料補給もない完全電動船であり、接岸時には港への電力供給も可能になる。そのため港湾施設の脱炭素化にも貢献することができるだろう」と話す。
ボーCEOは2万TEU型超大型コンテナ船をモデルケースに「30~32ノットのスピードを確保しつつ、船の生涯に当たる30年間にわたってCO2(二酸化炭素)を排出せずに航行を続けることができる」とm-MSRの利点を紹介。常時、高速航行ができるため、これまで12~14日ほどかかっていた日本~シアトル、日本~サンフランシスコなどを結ぶ太平洋航路は、6日未満で到達できるようになるという。
m-MSRは燃料と冷却材を一体化させているため、冷却材が失われたことによる事故は発生しない。原子炉が故障して温度が上昇し始めると、ドレンプラグが溶け、液体コア燃料の全負荷が、最終的なヒートシンクに密接にリンクされたパッシブドレンタンクに注がれ、冷却と非反応性を維持する。また、船の全生涯を通じて燃料と一体化した冷却材は全く船の外に出ず、閉ざされた空間に留まることになる。