「日本の鉄道 = 安全」は傲慢な発想だ 中国高速列車の衝突実験動画に見る、「相手を貶めて留飲を下げる」一部鉄道ファンの危うい反応

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6月、人民網日本語版で中国の高速列車の衝突実験が動画で紹介された。それに対するコメントは、相変わらず中国を見下したような内容ばかりだった。この風潮は危険である。

中国に限らない類似実験

前面パーツを付ける前の日立製新型2階建て車両カラバッジョ。前面パーツは繊維強化プラスチック(FRP)製だが、運転室周りはしっかりとした骨組みになっているのがわかる(画像:橋爪智之)
前面パーツを付ける前の日立製新型2階建て車両カラバッジョ。前面パーツは繊維強化プラスチック(FRP)製だが、運転室周りはしっかりとした骨組みになっているのがわかる(画像:橋爪智之)

 こうした衝突実験は中国だけではなく、例えばヨーロッパでも行われている。

 ヨーロッパには、2008年に制定され、2012年からヨーロッパ向けに製造されるすべての新型車両に適用が義務付けられている対衝突性規格「EN 15227」が存在している。

 このなかには、36Km/hでの正面衝突や110Km/hで踏切に立ち往生したトラックと衝突などといった、複数のシナリオが設けられ、クラッシュ時に運転室や車体全体などへの影響を最小限に抑えなければならない。

 ただし、自動車と比較して鉄道車両は大変高価なため、常に完成車体での実験が行われているわけではなく、たいていは先頭部分など車体の一部だけが実験に供され、そこで得られたデータを有限要素解析によって検証するといった方法が採られている。

 動画で紹介された実験では、車体全体を使った、むしろ大掛かりなものだったことがおわかりいただけると思う。

前提が異なる衝突リスク

シーメンス製電気機関車ユーロスプリンター(ES64U4型)。欧州連合(EU)が新型車両に義務付けた対衝突性規格「EN 15227」に適合しないため生産中止となった(画像:橋爪智之)
シーメンス製電気機関車ユーロスプリンター(ES64U4型)。欧州連合(EU)が新型車両に義務付けた対衝突性規格「EN 15227」に適合しないため生産中止となった(画像:橋爪智之)

「300Km/hで実験をしないのか」

という意見について、そもそもそのような高速度で衝突した場合、どんな頑丈な車体でも木っ端みじんになることは明白で、それよりも、より実用的な速度域での衝突安全性を高める方が理にかなっている。

 だが、

「衝突前提に車両を作っていること自体がおかしい」

のようなコメントもある。

 これについては、例えば日本の新幹線は踏切などを無くした専用線を建設し、信号システムには自動列車制御装置(ATC)を採用するなど、衝突を回避するための対策を徹底することで、開業以来衝突を伴うような事故が発生しておらず、それが

「日本人にとっての誇り」

となっている。

 一方で中国にせよ他の国にせよ、高速列車は在来線と同じ線路を共有する区間があるなど、完全に分離されているものではないため、日本の新幹線に対して衝突するリスクが少々高いのは致し方がなく、そのため国によって厳しい衝突安全基準が設けられている。

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