「日本の鉄道 = 安全」は傲慢な発想だ 中国高速列車の衝突実験動画に見る、「相手を貶めて留飲を下げる」一部鉄道ファンの危うい反応

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6月、人民網日本語版で中国の高速列車の衝突実験が動画で紹介された。それに対するコメントは、相変わらず中国を見下したような内容ばかりだった。この風潮は危険である。

中国「衝突実験」 ネット反応への違和感

日立製新型2階建て車両カラバッジョ(左)に設置された衝撃吸収装置およびアンチクライマー(連結器左右両脇の筋状の装置)。ヨーロッパにも厳しい衝突安全基準が設けられている(画像:橋爪智之)
日立製新型2階建て車両カラバッジョ(左)に設置された衝撃吸収装置およびアンチクライマー(連結器左右両脇の筋状の装置)。ヨーロッパにも厳しい衝突安全基準が設けられている(画像:橋爪智之)

 6月1日、中国の日本語ニュースサイト人民網日本語版で、中国で取り組んでいる高速列車の衝突実験の様子が動画で紹介された。解説には、先頭部分に搭載されている安全防護システムにより、万が一の衝突時には客室の変形が少なく、運転室が完全な形で残り、車両の上に乗り上げる現象がなく、客室部分の安全が保障されることが求められる、といった内容が添えられている。

 ところが、この動画に付いたコメントの多くは、否定的なものばかりだった。なかには実験に対する考察のようなコメントもあるが、ほとんどは

「1両でやっても意味がない。16両連結して300Km/hで衝突実験すれば?」
「そもそも衝突することを前提としているだけで笑止千万」
「日本なら列車は事故を起こさない」

といった、相変わらず中国を見下したような内容ばかりだった。

 筆者(橋爪智之、欧州鉄道フォトライター)は中国の肩を持つわけではなく、あくまで中立な立場として見ているが、こうした

「相手をおとしめて留飲を下げる」

という昨今の日本の風潮には、少し危機感を覚えている。

主目的のわからない実験

日立製トライブリッド車両マサッチョの衝撃吸収装置およびアンチクライマー(連結器左右両脇の筋状の装置)(画像:橋爪智之)
日立製トライブリッド車両マサッチョの衝撃吸収装置およびアンチクライマー(連結器左右両脇の筋状の装置)(画像:橋爪智之)

 実際のところ、この実験映像だけでは、何を主目的とした実験なのか、完全にはわからない。映像だけで判断をすると、連結器内部に設けられた

「アンチクライマー兼衝撃吸収装置」

の機能確認テストのように見える。

 アンチクライマーとは、爪のような複数のひだを連結面などに設置することで、万が一の衝突時に他の車両へ乗り上げることを防止するためのもので、姿形を変えつつ、昔から存在している。

 一方で車体に関しては、特に運転室部分の構体はかなりしっかりとした造りになっているようで、実験では特に変形した様子は見られなかった。

 もちろんコメント欄で指摘されていたような、編成となった状態でどの程度の効果が発揮されるのか、この映像からは判断できないが、今どきは16両すべてつなげた状態でテストをせずとも、部分的なデータを基にコンピューターで解析することも可能だ。

 この実験に意味があるかどうかは、現場の研究者たちが一番わかっていることで、詳細を知らない外野の人間は

「意見を言える立場」

にはない。

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