移動がマーケットを作る? 航空大手「ANA」がユニバーサル化に注力する理由
人流が生まれると経済が動く

ここからは、前述のANA経営戦略室MaaS推進室チームの大澤氏、北嶋氏、内岡氏(以下、敬称略)の対談形式でお届けする。
――Universal MaaSの経済的価値は何ですか。
大澤:人が動くと、各種交通サービスや観光地、周辺の宿泊施設や飲食店など地域のさまざまな場所に経済効果が及びます。超高齢化社会に突入し人口減少が進む日本で成長を続けるには、新たな移動需要を喚起することが必要です。そこにUniversal MaaSの価値があります。
北嶋:コロナ禍では化粧品やアパレルの売り上げが落ち込みましたが、外出時に身なりを整えることも一種の経済効果ではないでしょうか。
内岡:コロナ以降、移動に対する考え方が変わりリモートで済むことも増えました。近年、臨場感あふれる体験ができるテクノロジーも登場していますが、リアルな観光需要は減らないと考えています。
北嶋:移動は手段にとどまらず、それ自体に体験価値があります。コロナ禍では、みんなが移動躊躇層になりました。そこで初めて移動の価値を感じた人も多いと思います。人の欲求に結びついたものといえるかもしれません。
――コロナ禍でUniversal MaaSに共感する人は増えましたか。
大澤:増えました。現時点で関心のない方々もいつかは共感してくれると信じています。誰もが必ず移動に難しさを感じるタイミングを迎えるからです。遅いか早いかの問題ではないでしょうか。
2020年に、
「人は移動するほど幸せを感じる」
という研究が、国際科学誌ネイチャーニューロサイエンスで発表された。それによると、重要なのは遠くへ行くことではなく、どれだけ多様な新しい場所に行くかどうかだ。移動で体を動かすことは必須ではないが、見たり、聞いたり、触ったり、においをかいだり、五感を通して新しいことを経験することが、ストレス耐性を高めたり、健康を改善したりするという。
誰もが行きたい場所に行ける社会は、誰にとっても生きやすい社会である。近年注目されるESG(環境・社会・ガバナンス)投資と同様、Universal MaaSの取り組みは社会的価値の創造だけではない。まちづくりや地域創生など、多くのメリットを生み出すものといえそうだ。