“園児置き去り事故”を根絶したければ、各幼稚園の「ローカルルール」を結集させなさい

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子どものバス置き去り事故の再発を防止するためには、何をするべきなのか。心理学を手掛かりに考える。

全国の園に隠れた優れた知恵

バス送迎のチェックシート(画像:内閣府)
バス送迎のチェックシート(画像:内閣府)

 では、チーズを増やすにはどうすれば良いのだろうか。デンマーク出身の心理学者エリック・ホルナゲルは

「うまくいくことに注目せよ」

といっている。

 事故や失敗はいや応なく注目される。ひとたび事故が起きれば、メディアが集まり、当事者は非難され、関係者は報告書を書かされる。もちろん事故や失敗からも学ぶことは多い。なぜその事故が起きたのか、どうすれば防げたのかをしっかりと分析していけば、再発防止のためのヒントを得ることはできるだろう。

 一方で「うまくいこと」はどうだろうか。2022年も2021年も痛ましい事故が起きてしまったが、それ以外の2200万回の送迎はうまくいっているのだ。これは偶然なのだろうか。

 もちろん、何の対策もせずにたまたまうまくいっている例もあるだろう。しかし、現場の人たちが何の努力や工夫もすることなく、これだけの回数がうまくいくとは考え難い。それぞれの園には、現場の人たちが考えた

「子どもの置き去りを防ぐための手順やアイデア」

があり、それが有効に機能しているのではないだろうか。そしてこれらは、この手順やアイデアをまだ知らない他の園の「新しいチーズ」になり得るのではないか。

 しかし、残念ながら事故に比べて「うまくいくこと」は注目されない。安全はあって当たり前と思われているので、意識的に注目しようとしなければ、全国の園に眠っている置き去りを防ぐための素晴らしいアイデアには光が当たらないのだ。

 だとすれば、メディアや行政や社会がやるべきことは、事故の当事者を断罪したり、「気をつけろ」という通達を出したり、安全装置を義務付けたりすること以外にもある。全国の(あるいは世界中の)園で置き去りを防ぐために、

「どのような対策や手順やアイデアが用いられているのか」

情報を集め、効果が高いものや導入しやすいものを精査し、多くの人に紹介し、他の園にも展開をしていくことこそ重要なのではないだろうか。

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