“園児置き去り事故”を根絶したければ、各幼稚園の「ローカルルール」を結集させなさい

キーワード :
, ,
子どものバス置き去り事故の再発を防止するためには、何をするべきなのか。心理学を手掛かりに考える。

事故対策は「多重」であるべき理由

幼児置き去り検知システム市場。センサータイプによる分類(画像:SDKI Inc.)
幼児置き去り検知システム市場。センサータイプによる分類(画像:SDKI Inc.)

 これらを踏まえると、事故対策は「多重」であるべきだ。イギリスの心理学者ジェームズ・リーズンは、危険源と事故の関係を「スイスチーズモデル」で説明している。

 危険源とわれわれとの間には「穴が空いたスイスチーズ」のような障壁が何枚かあるので、普段は事故にならないが、チーズの穴が運悪く全て重なるときがある。こんなときに危険源は障壁を突き抜けてわれわれのところに届いてしまう。これが事故である。

 具体的にいえば、置き去り防止装置も含め、個々の事故対策がスイスチーズである。したがって、事故の確率を下げるには、スイスの枚数をなるべく増やすこと(対策をなるべく多重にしておくこと)と、チーズの穴を小さくすること(個々の対策が効果を発揮する確度を上げること)が重要である。

 例えば、ひとつの対策が効果を発揮する確率が99%だとしよう。99%なら十分高いと思われるかもしれないが、4万4000台の送迎バスが年間250日、行きと帰りで2回稼働すれば、2200万回の送迎が行われることになる。失敗が1%しか起きなくても、22万回も失敗してしまう。

 ところが、対策を多重にすると、この状況は一変する。確度99%の対策がふたつになれば、両方の対策が同時に機能しない確率は1万分の1に抑えられる。同様に失敗の確率は、対策を3重にすれば100万分の1に、4重にすれば1億分の1に、5重にすれば100億分の1に抑えられる。

 もちろんこれは、それぞれの対策の失敗確率が独立しているときに成り立つ机上の計算なので、こんなにうまくはいかないかもしれない。しかし、どんなに信頼性の高い対策でも、ひとつの対策に頼ることが危険なことはわかるだろう。一方で、個々の対策はたとえ不完全であってもチーズを増やしていけば、信頼性は相当高いレベルまで上げられるのだ。

 ちなみに筆者(島崎敢、心理学者)が冒頭で「装置の義務付けを歓迎する」と書いたのは「装置をつければ安心だから」ではなく

「チーズを1枚増やせるから」

である。しかし、装置の導入によって現場の人の心のなかでリスクホメオスタシスが起きてしまい、他のチーズがなくなってしまったり、穴が大きくなったりしては元も子もない。

全てのコメントを見る