高速トラック「80km制限撤廃」という名の暴論 正鵠を射る“本末転倒”の指摘、最重要課題はドライバーの安全確保だ

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このたび、政府がまとめた政策パッケージに、トラックの高速道路の最高速度を時速80kmから引き上げることが盛り込まれた。現場から聞こえる「本末転倒」という声の理由とは。

政策パッケージに対する勘違い

高速道路を走る物流トラック(画像:写真AC)
高速道路を走る物流トラック(画像:写真AC)

 速度規制の引き上げが注目を集めてしまったが、筆者(梶浦悠、経営コンサルタント)は政策パッケージに

「賛成」

の立場である。特に、政策パッケージと同時に策定された「取組に関するガイドライン」の内容は物流業界の課題が網羅されている。

 ここでいくつかご紹介しよう。ガイドラインでは、物流を取り巻く商慣行の見直しを「実施が必要な事項」として明示している。これまで、荷主事業者は業界の特性や制約により、効率化が困難な状況にある場合が多かった。

 荷主事業者は非効率な商慣行を課題として認識しながらも、顧客の希望を優先する必要があり、実際に課題の解決にいたることはまれだった。ガイドラインはこうした状況に変革をもたらすことを期待させる。

 また、政策パッケージでは、物流のDX(デジタルトランスフォーメーション。ITの浸透によってもたらされる変革)について明記されているが、ガイドラインには記述がない。現実的に達成したい改善を重視した内容となっており、改善の実現にに対する強い意志を感じる。

 働き方改革関連法が施行される2024年4月以降、どのような問題が発生するか、荷主事業者だけでなく物流事業者も具体化できていない現状がある。そのため、今、優先して着手すべき課題が選定できていない企業も多い。そのなかでガイドラインは今後、荷主事業者、物流事業者の共通認識となり、物流の効率化と合理化を促進するものとなるだろう。

 政策パッケージとガイドラインが、政府として物流改革・改善に向けた意思を明確にした素晴らしいもの、よいものだったからこそ、「速度規制の引き上げ」が盛り込まれたことを、もったいないと感じる。トラックドライバーのなかに、

「速度規制が緩和されれば早く帰宅できる」

という声があるのも事実だが、その代償が交通事故リスクの増加であることを、改めて認識したい。

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