高速トラック「80km制限撤廃」という名の暴論 正鵠を射る“本末転倒”の指摘、最重要課題はドライバーの安全確保だ
ぶれる働き方改革の焦点

そもそも、働き方改革は「それぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現すること」を目的としている。物流業界においては、労働環境の改善を通じて10年以上課題として取り上げられていたトラックドライバーの不足の解消が期待されていた。
しかし、改正法が成立した2019年以降、自動車運転業務に対する5年間の猶予期間の終了を目前にしても、大きな変化が見られないまま、2024年4月の法施行のタイミングを迎えようとしている。結果として、トラックドライバーの働き方や労働環境・待遇改善の状況よりも、輸送能力の不足に起因して発生する
「経済・生活への影響」
が主要な焦点となってしまっている。
そんななか、冒頭で紹介した政策パッケージには速度規制の引き上げが明記された。安全技術の普及や交通事故の発生状況を考慮した上で引き上げる方向で調整するというものである。実際に、スピードリミッターが装着された20年前と比較して事故件数が減少している事実があり、安全技術が進歩しているのも確かである。
「本末転倒」といわれる理由

しかし、ここで忘れてはいけないことがひとつある。それは、全てのドライバー、全ての物流事業者が交通事故ゼロを目指して尽力しているという事実だ。それでも交通事故がゼロにならない現実と関係者は日々向き合っているのである。
安全技術に関して20年前と現在を比較し、安全技術に進歩が見られる、というのは比較方法として適切ではない。安全技術の普及は現在における前提と考えるべきだ。現在の安全技術を導入した上で、時速80kmと時速を引き上げた場合の事故発生のリスクを比較する必要がある。
多くの企業でスローガンとして認識されている「安全は全てに優先する」を知っている人も多いだろう。安全を効率とてんびんにかけてはいけない。両立を目指す、とも違う。安全が
「唯一絶対の優先事項」
なのだ。これが物流業界に従事する関係者がスピードリミッター装着を受け入れてからの20年間で築き上げた思いであると考える。
その思いを最前線で実践しているのが、トラックドライバーである。速度規制の引き上げは、そのドライバーに安全上のリスクを許容しろといっている。働き方改革により、恩恵を受けるはずのトラックドライバーに交通事故という物流業界で一番のリスクを押し付けているのだ。これが、
「本末転倒」
といわれる理由である。