日本のトラックドライバーに「1000万プレイヤー」が全然いないワケ 米国では年収&女性が爆増中、決定的に異なる2つの残酷真実とは
米国が賃上げに踏み切れるワケ

米国がなぜそこまで大胆な賃上げに踏み切れるかといえば、ひとえに米国のトラック会社の方が利益を確保できているからである。ではそれはなぜか。
ひとつは、「生産性の違い」がある。
物流コンサルタントの久保田精一氏が当媒体に寄稿した記事「米国の新人ドライバーは「年収1400万円」 日本との格差はもはや絶望的、待遇改善のカギは「トラック大型化」も課題山積の現実」(2022年11月30日配信)にて、日本と米国のトラックの生産性の違いについて非常にわかりやすく解説されている。
氏の解説の一部をごくざっくばらんに伝えるとするなら、
「米国のトラックの方が大きいので一度でたくさんの荷物(日本のトラックの約2倍)を運べる。結果、生産性がより高い」
とのことである。
日本で主流になっているのは中型トラック(4トン)で、物流トラックの大型化には
・道路インフラ老朽化の問題
・通行許可を得るためにトラック会社がしなければならない行政上の事務手続きが煩雑すぎること
などが障壁となって一朝一夕には実現が難しい現状がある。
大手に搾取され続ける中小企業

米国のトラック会社の方が利益を確保できる理由のふたつ目に、「中抜き構造がない」が挙げられる。
経済産業省がまとめた2021年の調査報告書にて、中抜き構造の実態について記述がある。日本のトラック運送事業者は98%がトラック保有台数100台以下で、10台以下の企業は52%である。つまり、小規模のトラック会社の割合が非常に多い。
会社の規模はそのままパワーバランスとなり、中小企業は大手の下請け、そのさらに下請け……という形で仕事を割り振られていくのが業界の慣習である。なお同報告書によると
「各事業者は委託価格の10%程度を中抜きしてているため、例えば6次請けの事業者は荷主の支払価格の約6割の価格で受注することとなる」
とある。
そういえば筆者(武藤弘樹、フリーライター)もトラックドライバーをやっていたころ、会社の仕事が減ってきた折に営業担当者が新しい案件を取ってきて、みんなで「仕事だ仕事だ」と喜んでいたが、それがひ孫請けで、実際働いてみると「しんどい割にはやけに報酬が安い」と感じたものだった。これはおそらく、大手未満のトラック会社に勤務経験のあるドライバーにとってはあるあるではないだろうか。
小さい会社にとっては仕事があるだけでありがたく、筆者もそうした心持ちで働いてはいたが、いってしまえば
「大手に中小がずっと搾取され続ける構造」
でもあるわけで、ここにメスが入れられることで中小のトラック会社、およびトラックドライバーの労働環境改善の突破口となるはずである。
米国でも同様の中抜き構造はかつてあったのだが、これが問題視され、
「仲介業務と輸送業務をひとつの会社がやるのは禁止」
などが法案化されて、従来のような多重下請けが起こりにくい環境が構築されるに至った。
経産省の同リポートでは、米国のこの取り組みを「多重下請けの根本的な解決方法として参考にし、長期的に取り組むべし」としている。