EVの「サーマルマネジメント」が競争激化、先頭テスラを追うのは?【連載】和田憲一郎のモビリティ千思万考(3)

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近年、EVのサーマルマネジメントの分野で次々と新技術が開発されており、各社とも力を入れていることが分かる。ではなぜ今、サーマルマネジメントが必要なのだろうか。最近起こっていることと、その背景や今後の動きについて、筆者なりの考え方を紹介したい。

テスラのオクトバルブ付TMSとは

 さて、筆者が考えるに、現時点で最も革新的かつ優れた方式として、テスラが開発したオクトバルブ付TMSモジュールがある。テスラは2020年発売の「モデルY」から当該システムを採用しているが、最大の特徴は、オクト(ラテン語で8を表す)バルブと呼ばれるユニークな部品にある。この部品は、内部に二つの回転弁を内蔵し、コンピュータにより流量を8方向に差配できるシステムを有している。

 筆者が見る限り、このシステムの特徴は主に二つある。一つは、これまで利活用していなかったバッテリーやe-Axle(モーター、インバータ、トランスミッション)からの排熱を利用可能とするとともに、極寒時はバッテリーのみを暖房することができるなど、多彩な機能を有すること。もう一つは、モデルSから採用済みであるOTA(Over The Air、無線通信)により、オクトバルブ付TMSもアップデートも可能となっている点である。

 このような革新的技術は、どこかのサプライヤーから提案があったのかと想像したが、調べてみると、オクトバルブの原型ともいえるパテントをテスラ自身が2016年11月に出願している。さらに、モデルYで採用された詳細モードも2018年9月に出願している。つまり、これまでの統合ECUと同様に、必要な技術は自社開発したことが分かる。

 モデルYから採用したため、今後どうするのかと思っていたら、「モデル3」のマイナーチェンジにも搭載している。ということは、よほど効果が大きかったことと、今後テスラの全車に装着するという意思表示であろう。

 なお、モデルYとモデル3は兄弟車であるが、モデル3の全幅は1850mmと、モデルYの1920mmより70mm小さい。このため、当初は、モデルYに搭載したオクトバルブ付TMSをモデル3に移植するのは、テスラ技術者もかなり苦労したのではないかと思った。しかし、時系列的に考えれば、オクトバルブ付TMSを最初はモデル3の試作車に搭載して実験していたと思われる。そうであれば、モデル3に正式に移植することは難なくできたであろう。2022年発売予定のEVピックアップ「サイバートラック」に、小型、軽量化、低コスト化を図った第2世代を搭載すると予測する。

 冒頭、シェフラーやVWのID.3の例を述べたが、テスラのオクトバルブ付TMSモジュールが世の中に出たことで、一気にEVのサーマルマネジメント開発の号砲が鳴ったといえる。革新的な商品であるが、一旦できてしまうと、現物があることから、課題や改良点なども考えやすい。日系自動車メーカーおよび空調システムメーカーにとっても、どのように新しいサーマルマネジメントを開発していくのか、指標が見えてきたのではないだろうか。

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