自動車は「社会のガン」 ノーベル賞に最も近い日本人経済学者はなぜ自動車を大批判したのか? 事故・公害・犯罪を誘引、SDGs社会で再考する
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「ノーベル経済学賞に最も近い日本人」といわれた経済学者・宇沢弘文。そんな宇沢はなぜ自動車の存在を非難したのか。改めて考える。
「歩道橋に感じる非人間性」
例えば、鉄道は走らせるためには線路や駅を専有地にする必要があり、そのための費用は原則として鉄道利用者が払うことになる。
しかし、高速道路などの有料道路を除けば、自動車の利用者は道路を無料で使用することができる。自動車税やガソリン税といった負担はあるが、それは交通事故や公害の被害に比べると、遥かに少ないという。
自動車は歩行者を道路の端に追いやった。本書が書かれた当時は歩道と車道が分離していない道路も多く、歩行者の命が常に危険にさらされる状態であった。
自動車を効率的に走らせるために、歩行者に階段を上り下りさせる横断歩道橋に対して、宇沢は厳しい批判を向けており、
「わたくしは、横断歩道橋を渡るたびに、その設計者の非人間性と俗悪さとをおもい、このような人々が日本の道路の設計をし、管理していることをおもい、一種の恐怖感すらもつのである」(62ページ)
とまで書いている。
では、こうした自動車の及ぼす悪影響は本書の出版から半世紀近くたつなかでどれだけ改善したのだろうか。
まず、交通事故であるが、本書では1971(昭和46)年度の交通事故による死亡数として、警察庁統計(事故後24時間以内死亡)で1万6000人、厚生労働省統計で2万1000人という数字があげられている。これに対して2022年(現在の統計は年度ではなく暦年で出ている)の警察庁統計による交通事故の死亡者数は2610人にまで激減している(厚生労働省の人口動態統計では2021年で3536人)。
この背景には、
・自動車の安全性能が高まった
・シートベルトの着用が進んだ
・道路の整備が進んだ
・救命医療が発達した
ことなどがあるが、いずれにせよ、交通事故という面については自動車の社会的費用は下がったといえるだろう。