燃料電池車の需要拡大阻む「EV技術革新」というジレンマ 日本政府の水素増産計画にみる、戦略的姿勢の重要性とは
「混焼ディーゼルエンジン」の可能性

水素燃料電池以外では、水素とA重油(重油のなかでは最も動粘度が低い)を併用した
「混焼ディーゼルエンジン」
が船舶用として極めて有効と期待されている。これらは既に燃料全体の半量を水素としたものまで実用性が確認されている。水素混焼とすることで、CO2および硫黄酸化物の排出量を大幅に低減化することができるというわけだ。
一方、水素を単体で内燃機関の燃料とすることはどうなのだろうか。この分野ではトヨタやマツダで既に多くの実証実験を重ねており、CO2フリーの運転を実現している。ただし、燃料電池とは異なり空気を使った燃焼であることから、窒素酸化物の発生は避けられない。とはいえ、
「既存の内燃機関の手直し」
で実用化が可能なのは有利である。水素の供給量が充足かつ安定し、そのコストが現在のガソリン並みになれば普及が進む可能性もある。
EU騒動で注目された「e-fuel」

このほか、水素の可能性がある分野としては、いわゆるe-fuelがある。
これは化石燃料から水素を製造するのとは逆に、ほかから排出されたCO2と水素を原料に合成した炭化水素である。内燃機関で燃料として使用する際にCO2を排出するものの、製造時のCO2排出量はゼロである。これらは主としてガスタービン用航空機燃料で有望とされている。
e-fuelについては別の動きもある。1か月ほど前、欧州連合(EU)は2035年からの新車販売は電気自動車(EV)のみとすると決定した。しかしその後に自動車関連企業からの猛反発を受け、一転してe-fuelのみは容認すると方針転換した。これはe-fuelの存在が大きくクローズアップされた瞬間だった。
モビリティ以外では、水素を燃料としたガスタービン発電も実用化に向けて多くの国で研究されている。こうした発電は水素の供給が安定すれば、おそらく実用運転までの道は早いだろう。ガスタービン発電システムにおいて、廃熱を回収利用するなどして全体での熱効率を高めることは日本が最も得意としている技術でもある。
さらに、ガスタービンは燃料に対する純度への許容範囲が広いという特徴がある。すなわち、水素のみはもちろんだが液化天然ガス(LNG)などとの混合使用にも向いているということである。