燃料電池車の需要拡大阻む「EV技術革新」というジレンマ 日本政府の水素増産計画にみる、戦略的姿勢の重要性とは
年間水素生産量は米中に後れ
日本が目指すのはこの分野においても先行することで、クリーン水素の国際的な基準を日本主導で策定することにある。
これは現時点での年間水素生産量において、
・中国:約3000万t
・米国:1000万t
に後れを取っていることを考えると正直困難な道だ。
ただし、中国も米国も生産しているのは90%以上がCO2未回収の化石燃料由来水素である。ここで日本が基準策定での主導権を握ることができれば、その後の戦略は極めて有利になることは言うまでもない。
新たな水素基本戦略に必要とされる予算は、今後2040年までに官民合わせて約15兆円と試算されている。そのなかには既述したクリーン水素の電気分解製造プラントについて、2030年までに日本企業のみで
「世界シェア10%」
を目指すという具体的な導入目標も提示された。攻めの戦略と評したのはこうしたことが理由である。
水素ステーションの整備が必須
さて、水素の製造についての戦略はわかった。次に重要なのは製造した水素をどの様に使うのかだ。すなわち水素モビリティ戦略である。
ここではまず燃料電池車が基本となる。自家用車や小規模輸送の営業車、官公庁の公用車などでの需要を拡大するには何が必要か。
日本の場合、燃料電池車の技術的な問題はほぼクリアとなり、その実用性は現時点でも極めて高い。問題は水素補給ステーションの数が不十分かつ大都市圏に集中していることである。
今後の燃料電池車普及のためには、たとえ地方であっても補給ステーションの十分な整備が必須である。水素の供給が安定したことで地方での燃料電池車需要が拡大すれば、量産効果で車両そのものの市販価格も下がるだろう。
加えて現在、トヨタとホンダは他社との協業で、大型トラックでの燃料電池の採用を拡大すべく実証実験に着手しようとしている。この分野は既に実用に近い実証実験が行われている乗り合いバスも有望である。さらに鉄道車両などでも将来性が期待できる。