燃料電池車の需要拡大阻む「EV技術革新」というジレンマ 日本政府の水素増産計画にみる、戦略的姿勢の重要性とは
政府による“攻めの戦略”
2023年5月、日本政府は2017年に制定した「水素基本戦略」を改訂する。今回明らかになったその骨子は、一言で行ってしまえば攻めの戦略である。
まず現在は年間200万t程度にすぎない水素の生産量を段階的に増やし、2040年には現在の6倍の1200万tを目指す。
そのためには大規模な水素製造プラントの新設。製造した水素を必要とされる場所に迅速に供給するためのサプライチェーン整備と水素補給ステーションの増設も必要となる。
水素を製造する方法について、現在採られているのはそのほとんどが
「化石燃料(炭化水素)からの分解」
である。しかしこの方法では、製造時にCO2が発生することは避けられない。加えて発生したCO2は回収再利用されることなく大気に放出されている。
明確にされない中間の判定基準
一方、日本が新たに目指すのは、製造時にCO2を発生しない
「水の電気分解」
による製造法となる。
使うのは、水力や太陽光などの再生可能エネルギー電力である。もちろん一足飛びに化石燃料から水に水素の原料を変えることは容易なことではない。使用電力を再生可能エネルギーに限ると言っても、いきなりは現実的ではないだろう。
そこで当初は化石燃料由来の製造法も併用し、製造時のCO2の発生もやむをえないものとする。ただし、CO2は大気放出することなく段階的に回収量を増やし、再利用する。
水素はその原料と製造法によってそのクリーン度が分類されている。もっとも優れているのは、既述した通り、水を原料に再生可能エネルギーによる電力で電気分解製造したものだ。もっとも劣っているのは化石燃料を原料にCO2を回収することなく製造したものである。
ただしその中間の判定基準、すなわち
・製造時のCO2の排出量
・その回収レベルの評価
などについては明確にされているわけではない。