保津川転覆事故にみる「観光川下り」の危険性 事故発生ペースは“数年に一度”も 必要なのは感情的批判ではなく、地道な対策だ

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観光川下りは事故発生のたび、安全対策が強化されてきた。しかし、それでも事故は完璧に防げていない。

事故の発生ペースは「数年に一度」

保津川下り(画像:写真AC)
保津川下り(画像:写真AC)

 3月28日、京都府亀岡市の観光川下りの名所「保津川下り」で船が転覆し、船頭が死亡する事故が起きた。観光川下りは全国各地に存在するが、自然を利用するがゆえに事故も絶えない。発生のたびに安全対策は強化されてきたが、それでも事故は完璧に防げていない。

 観光川下りは、急流を下るものだけではなく、比較的穏やかな川で行われるものも含めれば、その数は無数だ。残念ながら川下りに限定した事故統計は存在しないが、過去の報道を調べてみると、

「数年に一度」

のペースで、なんらかの事故が発生している。

 冷静に考えればわかるように、川下りはそもそも「安全にスリルを味わえる」ような観光でない。遊園地の急流アトラクションとは違って、自然環境を利用しているため、その日の気象条件などによって川の様子も異なる。見た目以上に危険で、万が一に備えて乗船の際には救命胴衣(ライフジャケット)が欠かせない。

 現在では、国土交通省が2018年2月に実施した法改正で、全ての小型船舶(ミニボートなどは除く)で、船長が乗船者に救命胴衣を着用させることを義務づけている。国土交通省の資料によると、

「ライフジャケット着用者の海中転落時の生存率は、非着用者に比べて2倍以上」

としている。今回の事故では不幸にも死者が出たが、救命胴衣を着用していたことによって救われた命もあるのだ。

 現在は当たり前になっている救命胴衣着用は、不幸な事故を通じて普及したものだ。もともと「小型船舶安全規則」では、定員と同数の救命胴衣か救命クッションを備え付けることが定められていた。しかし、かつての川下りでは、

「救命クッションは積んでいても、救命胴衣は備えていない」

場合が多かった。

 1993(平成5)年11月、岐阜県可児市の「日本ライン下り」で発生した事故の際には、関係者の

「着用してもらおうとしたが、客から不評だったために定着しなかった」(『朝日新聞』1993年11月29日付朝刊)

という証言もある。

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