赤字公共交通の救世主「MaaS」 導入議論で超えるべき「高齢者 = デジタル弱者」という時代遅れの方程式
免許非保有者の外出率は44%

国土交通省の報告書「高齢者の生活・外出特性について」によると、65歳以上の外出率は免許保有者で78%なのに対し、免許非保有者で57%と半数ほどにとどまっている。特に、
・湯沢市(秋田県)
・伊那市(長野県)
・上越市(新潟県)
・長門市(山口県)
・今治市(愛媛県)
・人吉市(熊本県)
といった地方中心都市圏では、免許非保有者の外出率が44%(65歳以上)と低い。
電車やバスなどの公共交通機関が発達し、少し歩けばすぐに駅やバス停にたどり着ける都市部とは異なり、過疎地は自家用車やタクシーなどの車での移動が大前提となる。そのため、運転免許の取得はおろか、ひとり1台、車を所有しているのは当たり前となっている。
しかし、身体に不自由があったり、認知機能の低下を感じていたりする高齢者などは、自家用車の運転が難しい。運転を控えるどころか、免許の返納さえも検討しなければならなくなる。
外出のたびにタクシーを呼ぶことも手間がかかる。そもそも自家用車の運転ができない子どもや妊婦なども、同様に移動の制限がある。自由に運転できない人にとってこうした課題は深刻だ。
交通事業者の人手不足解消になるか

移動が困難な事例をひとつ紹介する。
筆者(室井大和、自動車ライター)の祖母は、公共交通機関の乏しい地方の山間部に住んでいた。バス停までは歩いて40分以上かかる。電車は使わない。なぜなら
「買い物先よりも駅の方が遠い」
ので、必然的に移動手段はタクシーのみになる。週に1回ほど街まで買い物に出掛ける際には必ず電話でタクシーを呼んでいる。
しかし、タクシー会社の配車オペレーターにつながりにくいことがあるらしい。地元のタクシー会社は10台以下の少ない車両しか保有しておらず、配車オペレーターも常に人手不足の状態になっているという。
まれに、タクシードライバーがオペレーターの代わりに電話を受けて、利用者のもとへ駆けつける体制のときもあるようだ。しかし、ドライバーが稼働中であれば、呼んでもすぐには来てくれない。
こうしたこともあり、タクシーを呼ぶ場合は前日に予約をしておかなければならないが、翌日の予定が立たないこともあるため、より外出しにくい状況になっている。