自動車メーカー・サプライヤー間の「値下げ交渉」、もはや“商慣習”になっているワケ
支給材価格は据え置き
値引き要請交渉に影響を与えるのは、製品の品質と機能、サプライヤーの競争力など、サプライヤーの内的要因がひとつ挙げられる。
近年はカーボンニュートラルの実現に向けたトレンドの中で、電動化技術や、自動運転化に伴う自動運転技術、ソフトウエア関連技術が自動車業界における新たな競争領域になっている。そういった高付加価値製品は大きな値引き要請の対象にはなりにくい一方で、新たな付加価値の小さい伝統的な製品は、一般的に値引き要請の対象になりやすい。
また、需要と供給のバランスや資源価格の変化などの外的要因も大きいと言えるだろう。2020年から2022年にかけては新型コロナウィルスのパンデミックが引き起こした消費者需要の変化やサプライチェーンの混乱、資源価格の高騰、半導体不足など、さまざまな外的要因によって値引き要請の慣例に影響が及んだ。そのため、先述した通り、トヨタやホンダなどの自動車メーカー各社は値引き要請を見送るなど、通常の慣例とは異なる特別措置を講じてきた。
冒頭でトヨタは2023年度からサプライヤーへの値引き要請を再開すると書いたが、サプライヤーへの支給材価格は据え置く方針を決めている。これはトヨタがその調達力を生かし、鉄鋼メーカーと交渉した上で鉄鋼材を集中購買し、系列のサプライヤーに割安な価格で卸しているものだが、昨今の原料価格やエネルギー価格の高騰を考慮し、サプライヤーの製品に対する値引き交渉を行う代わりに、支給材の価格は据え置くことを決定したとみられる。
2023年現在は新型コロナウィルスによる大きな需要変化やサプライチェーンの混乱は一時と比較してだいぶ落ち着いてきているが、資源価格の高騰はウクライナ戦争などの影響もあり依然として続いている。
引き続き自動車業界における「値下げ要請」の商慣習は、通常とは違った対応が求められる状況がまだ続くが、その中でも「より良い商品を、より安い価格で」提供するための目的を果たし、自動車メーカーとサプライヤーの共存共栄がどのように実現されていくか、注目である。