モータースポーツのプロ用カメラ、なぜ「キヤノン」の独壇場なのか? 各社比較を通して考える
αシリーズへの不安感

この違いはどこから来るのだろうか。
ソニーのαシリーズには、実は強度を始め、いくつかの不安が語られていた。ひとつはα7発売初期にメーカー外からで強化パーツが発売されるに至った、「Eマウントの強度問題」。そしてもうひとつは多機能ゆえに繊細な「マルチファンクション・ストロボシュー」の構造だ。
前者は、超望遠の2kg前後のレンズ使用を日常化しているスポーツカメラマンからは致命的に感じる。ソニーはその後、α9をはじめとしてマウントのネジを4本から6本に増加することで強度問題は解消した、という。一方、競合のキヤノンやニコンの新マウントにはそのようなうわさは皆無である。むしろ大口径であるがゆえに十分な強度を持たせた、とさまざまな場で訴求している。
後者のストロボシューに関しても、αシリーズ特有のデリケートさを報告している書き込みが散見される。確かに上部に位置するストロボシューは、少しの雨でもぬれやすく、故障の原因になる確率が高まりそうだが、それは臆測にすぎないのだろうか。
例えば2021年キヤノンR3がようやくマルチファンクション・ストロボシューをソニー同様に搭載した。しかし、アクセサリー未装着時はシューカバー装着を推奨している。そして従来品との接続の際に、防じん・防滴性能を維持させるためのアクセサリー部品を同時に発売している。
また、スウェーデンに本社を置く世界的ストロボトップメーカーのプロフォトから、唯一ソニー用にだけストロボシューの保護パーツが出ていることからも、単なる臆測とはいえないのではないか。
また記憶メディアも、キヤノンとニコンは強靭でスピードの速いCFexpress Type Bが使用できる。それに比べ、ソニーのαシリーズは従来のSDカードに加えて、現状では速度や容量がType Bほどではないのに価格はより高価なCFexpress Type Aしか使用できない。そのことも、プロカメラマンの使用率には不利に働く可能性は高い。
さらに、人によっては小型すぎると感じるカメラボディーも、厳寒のなかでカメラグローブをした状態では操作性が悪くなることが容易に想定される。
国際的なスポーツ競技では、その現場から競技終了後すぐにデータをクラウドを介して納品しなければならない。カメラマンたちからすれば不安はなるべく避けたい、というのが本音であろう。環境がさらに厳しい場合も想定される、モータースポーツの世界ではなおのことだ。
以上のように、いくつかの不安がソニーのαシリーズへの変更をちゅうちょさせ、プロスポーツカメラマンの使用率が上がらない理由に思われる。