ロシア人はなぜ「計画性」がないのか? ロシアトヨタ元社長が直面した旧社会主義国家の現実と、それを支えた奥田碩のリーダーシップ
ロシア人に「計画性がない」ワケ
2008(平成20)年に入ると世界的に経済は減速気味になり、トヨタの販売台数も北米やヨーロッパで前年を下回るようになるが、ロシアでの販売は堅調で、リーマンブラザーズの破綻が明らかになった9月ですら前年同月比70%増の販売台数だったという。
しかし、2008年10月6日にロシアの株式市場が暴落し、ルーブルも売られ切り下げが続いた。1バレル = 140ドル近かった原油価格が50ドル程度にまで下がったことによってロシア経済は一気に沈んでしまった。
自動車販売も11月に入ると急失速し、ロシアトヨタでも大量の在庫を抱えてしまったという。ロシアへの輸送を考えると、ロシアで販売する車を4か月前には日本の工場に発注する必要があり、夏場の販売の好調さから強気の発注をしてしまっていたのだ。
結果、ロシアトヨタは大量の在庫と、ルーブル安による為替差損によって債務超過に陥ってしまう。著者の5年3か月におよぶロシアトヨタでの任期の最後はほろ苦いものになってしまった。
最後に著者は数々の動乱に見舞われてきたロシアについて、次のように語っている。
「ロシア人には社会の急激な変化と向き合うための心の準備ができている。明日、なにがあってもおかしくない、と彼らは考える。裏腹に、計画性というものがない。社会主義とはいったいなんだったのだろう? 彼らは遠い先の計画を立てる気持ちになれない」(281ページ)
このように本書はロシアにおけるビジネスだけではなく、ロシア社会の特徴を教えてくれるものだが、もうひとつ、本書で魅力的に描かれているのがトヨタの当時の奥田碩(ひろし)会長の姿である。
言葉少なく社員に発破をかけ、著者がロシア内務省に証人として呼ばれた際にはいつでも駆けつけられるように、名古屋の空港に社有機を待機させていたという奥田会長の姿は、司馬遼太郎の『坂の上の雲』における大山巌を思わせるもので、非常に印象的だ。
トヨタを世界一の自動車メーカーに押し上げたリーダーシップの一端を知ることができる本でもある。