進むも地獄、退くも地獄 赤字ローカル線「存廃問題」が岸田内閣に突き付ける、沈黙の最後通告
ローカル線の再構築が与える弊害

岸田文雄首相は2022年に防衛費を国内総生産(GDP)比の2%へと引き上げることを表明し、世間の関心を集めた。岸田首相は防衛費倍増の財源を増税で賄うとし、その手始めとして2023年度の防衛予算は約1兆4000億円の増額が検討されている。
防衛増税は私たちの懐具合を左右する話だから、多くの人が関心を寄せることは理解できる。他方で、ローカル線の再構築によって私たちの暮らしそのものが成り立たなくなる可能性を秘めている。それにもかかわらず、大きな話題になっていない。
「乗らない鉄道だから、廃止しても問題ない」
と考えがちだが、例えば食料品や工業製品の輸送は貨物列車の運行などによって支えられている。ローカル線の再構築によって鉄道路線が廃止になれば、当然ながら貨物列車も走れなくなる。
トラック輸送で代替することも可能だが、トラック業界は慢性的な人手不足。また、今後は急速に高齢化が進展することが予測されている。そんな人手不足かつ高齢化しているトラック業界が、貨物列車が担っていた大量輸送を代替できるとは考えづらい。
「結論ありき」の議論

ローカル線の再構築は物流を大きく揺るがしかねない事態だから、もう少し話題になってもいいはずだが、深刻に受け止められている気配はない。その理由は、いくつか考えられる。
なによりも再構築と言いながらも、その実態は鉄道路線の縮小・廃止、バスへの転換を前提に議論が進められていることが大きい。縮小・廃止、バスへの転換といった
「結論ありき」
の議論では、諦めムードにならざるを得ない。
そして予算規模が少額という理由もあるだろう。ローカル線の再構築に対して、政府は従来の予算額から約50億円を追加する方針を発表した。しかし、防衛費のような目立つ金額ではない。むしろ少額なのでは、と感じる人もいるだろう。
予算規模の多寡は、岸田内閣の政策に対する本気度を測るバロメーターとも言える。とはいえ、多額の予算を計上すれば、
「岸田内閣はローカル線の廃止に本腰を入れ始めた」
といった誤解を生みかねない。
予算を多くつけることで本気度を示せば、赤字ローカル線を多く抱える地方都市から反発が出てくる。特に、今春には統一地方選が控えているだけに、取りあえず今すぐに地方都市から反発を受けることは避けたい。そんな思惑も透けて見える。
赤字ローカル線の存廃問題は、結局のところ岸田内閣にとって、そして地方都市を選挙区とする政治家にとっても「進むも地獄、退くも地獄」といった様相を見せている。