「人間は交通事故を必ず起こす」 こんな失敗前提に立った最先端の安全対策「ビジョンゼロ」をご存じか【連載】牧村和彦博士の移動×都市のDX最前線(9)
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「人間は交通事故を起こしてしまう」という事を前提に、たとえ起こったとしても「重傷化させないための道づくり」を推進する交通政策「ビジョンゼロ」を解説する。
低コストとスピード感
長年の取り組み、計画技術の進歩により、重傷事故を防ぐ道路設計や道路運用が世界各地で成果を上げてきた。従来の交通安全対策と言えば、ドライバーの運転行動を改善させ、多くは運転手の責任として扱い、事故が生じた場所を事後的に対策するのが一般的だ。
ビジョンゼロ政策では、人のミスや限界を前提とした道路設計の改善を基本とし、市街地や人と交錯する交差点部では、車を走りにくくし、重傷事故が生じるリスクの高いところに、積極的に安全対策の投資をするなど、やみくもに事故を防ぐ対策から、死亡事故と重傷事故を防ぐ対策にシフトしてきている。
また、ビジョンゼロの特徴のひとつは、低コストとスピード感だろう。ニューヨークでは、交差点の抜本改良といった大規模改修ではなく、コストをかけず安価に路面表示の改善や小規模な改良を矢継ぎ早に街中で展開してきた。その結果、歩行者関連の交通事故が、わずか5年間でおよそ半分に減ったというニュースが2018年1月、世界を駆け巡ったのは記憶に新しい。