「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」 川端康成の名作に登場するトンネルの場所をご存じか? 東京2月雪の夜に想う
年1000万人が訪れる町に変貌

国境を越えた向こうの雪国の風景も新幹線の開通とともに大きく変わった。観光客が新幹線に乗車して訪れるようになったのだ。
さらに、1985(昭和60)年に関越自動車道が開通すると、バブル期のスキーブームを追い風に、年1000万人の観光客が訪れる町となった。
2015年に北陸新幹線の長野~金沢間が開業するまでは、東京から北陸に向かう際、「飛行機以外の最短ルート」として乗り換え客も多かった。
そんな夢のような繁栄の後、町は無秩序に建設されたリゾートマンションが廃墟のように並ぶ土地として、今度はネガティブなイメージで知られるようになった。
ただ、今では再整備も進み、ほどよくひなびたリゾート地として客を集めるようになっている。
ともあれ、越後湯沢に雪国というイメージを抱くのは川端の誰もが知っている書き出しの情景描写があるからにほかならない。
ほかの作家は鉄道の風景をどう描いたか

ならば、ほかの作家たちはどんな鉄道の風景を描いているのか、気になる人もいると思うので記しておこう。
夏目漱石が『三四郎』の中で記したのは、名古屋行きの列車内の様子である。
「駅夫が屋根をどしどし踏んで、上から灯の点いた洋灯を挿し込んで行く。三四郎は思い出したように前の停車場で買った弁当を食い出した」
志賀直哉の『網走まで』では、上野駅で青森行きの列車に乗る人々の風景が描かれる。
「改札口の手摺りへつかえた手荷物を口を歪めて引っぱる人や、本流から食み出して無理にまた、還ろうとする人や、それを入れまいとする人や、いつもの通りの混雑である」
一風変わったところでは松本清張の『点と線』だろうか。
「安田はホームに立って南側の隣のホームを見ていた。これは14番線と15番線で、遠距離列車の発着ホームだった。現に今も、15番線には列車が待っていた。つまり、間の13番線も14番線も、邪魔な列車が入っていないので、このホームから15番線の列車が見通せたのであった」
『雪国』を筆頭に、タイトルは知っていても作品を読んだことはない人も多いはずだ。ちょうど外出も控えなければならない雪の日は、読書で過ごすのも一興だ。