燃料電池車の販売低迷 「水素ステーション」無いから売れないのか、はたまた売れないから無いのか 一体どちらだ?
和泉市の市長公用車、水素充填に堺市へ

水素ステーションの普及が進まず、地方自治体が導入した燃料電池自動車(FCV)の水素充填に苦労する例が関西で相次いでいる。水素普及を打ち出した政府の戦略には暗雲が漂う。
大阪府南部を南北に貫く幹線道路の国道309号線。堺市美原区の沿線に堺市唯一の水素ステーションがある。2020年に岩谷産業と日本水素ステーションネットワーク合同会社が開設した「イワタニ水素ステーション堺美原」だ。
平日の朝、午前9時の営業開始からしばらく様子を眺めてみた。しかし、1時間以上が過ぎても水素充填に訪れるFCVはなかった。近くで営業するガソリンスタンドで店員に聞くと、
「充填に来る車はあまり見かけない。そもそもFCV自体がこの辺では少ないからでは」
と教えてくれた。
寄贈されたFCVが「宝の持ち腐れ」に

この水素ステーションには、約300m離れた美原区役所の公用車のFCVが水素充填に来ているが、もっと遠方から来る自治体のFCVもある。約20km離れた大阪府和泉市の市長公用車だ。移動には片道30分ほどかかる。
和泉市の市長公用車はトヨタ自動車の「ミライ」。トヨタ公式ディーラーのトヨタ南海グループから2021年に寄贈された。ただ、市長は2台ある公用車のうち、ハイブリッド車(HV)を使うことが多く、FCVが水素充填に訪れるのは年間に数えるほど。水素ステーションが和泉市内にゼロ、大阪府南部でも堺市と田尻町に1か所ずつしかないことが影響している。
市長公用車のFCVが稼働するのは、環境関連のイベントなどに限られている。和泉市総務管財室は
「大阪府庁へ出張の際に充填したことがあるが、公務の時間を割いてわざわざ寄り道できない」
と渋い口調。せっかく寄贈してくれたFCVが宝の持ち腐れになっている。
2022年末には、同じような事例が京都府亀岡市で問題になった。市長公用車に導入したFCVが水素充填のために40km近く離れた京都市伏見区へ向かっているからだ。移動時間は約40分。年間の充填回数約50回のうち、7割は充填するためだけに走行したという。
関西は関東や東海に比べ、水素ステーションの数が少ない。近くに水素ステーションがない自治体は、導入したFCVを持て余しているわけだ。背景にはFCVの販売不振が見え、FCV推進を掲げる政府の計画が進んでいないことをうかがわせる。