要介護認定700万人超え間近も 「介護・福祉タクシー」の利用を阻む高すぎるハードルの正体
福祉事業所として転換した事例
介護タクシー事業だけではなく、さまざまな福祉サービスを提供して地元住民との良好な関係を築いているのが、千葉県香取市の水郷エスコート(坂本直巳代表理事)だ。
東京でハイヤーの運転手をしていた代表の坂本さんは、義理父の介護経験をきっかけに、2014年に介護タクシー事業を立ち上げた。個人事業主としての立ち上げだったが、翌年には法人化。介護保険事業を開始し、保険外利用と介護保険利用の併用を可能とすることが目的だ。
同社のサービスは、とにかく幅が広い。市内と周辺地域の介護タクシー全般の事業はもちろん、救急車タイプの車両を使用する患者搬送サービス・精神患者搬送も行う。全国搬送対応の24時間対応稲敷広域消防本部認定患者等搬送事業者となっており、全スタッフが介護福祉士、介護初任者講習取得者、各種消防認定患者搬送乗務員だ。
搬送事業だけではなく、訪問介護サービス・居宅介護・重度訪問介護事業も行う。これならば、病院やワクチン接種への移動支援も付き添いも、ワンストップでのサービスが可能となる。ケアプランを把握できるため、予約もスムーズだ。
21年からは香取市で初の移動スーパー事業を開始。さらには、福祉有償運送運転者講習、介護タクシー事業の譲渡・引き継ぎも行う。その地域で介護タクシーの事業者がなくなれば、地域の移動支援がなくなってしまう。そこを埋めていこうとする試みだ。
移動スーパーの実証事業を始めた20年に取材をした際に、坂本さんは
「もうけは考えていません。福祉の制度にはどうしても利用者との溝がある。そこをどう支援するか、自分たちのサービスを見て、資金的に余力のある大きな企業に知ってもらえることが狙い」
と考えを語っていた。
自治体によって大きな差がある福祉サービスを、地域の民間企業がどう埋めていくのかを考えているのだ。