MSJはなぜ「開発中止」に追い込まれたのか? 本当に日本の技術を憂うなら、まず製造国として型式証明を承認せよ

キーワード :
, ,
日本の国産旅客機スペースジェット開発に対して、ついに中止の決定が下された。もし、日本という国が将来の旅客機製造に希望をつなぐならば、今後どうすればよいのか。

国に残された仕事とは

三菱航空機のウェブサイト(画像:三菱航空機)
三菱航空機のウェブサイト(画像:三菱航空機)

 MSJプロジェクトの教訓としては、技術的なレガシーを引き継ぐだけでは十分ではない。MSJが最後まで克服できなかった型式証明の問題について、日本政府がこの先どのように取り組んでいくのか、という根本的な課題が残されている。

 政治家や企業家は、政府が補助金や税制で支援さえすれば、後は

「企業側の仕事」

だと考えている節があるが、民間航空機産業においては大間違いである。以前の記事「なぜ国産旅客機「MRJ」は失敗したのか 現場技術者に非はなかった? 知られざる問題の本質とは」(2023年1月9日配信)に書いたとおり、設計や製造の審査を行って型式証明を承認するのは

「行政の仕事」

なのである。日本という国の行政機構にその能力がなければ、企業がどれだけ努力しようが、国産旅客機など未来永劫(えいごう)存在し得ない。

 ブラジル(エンブラエル)やカナダ(ボンバルディア)が世界中に小型旅客機を供給しているが、これらの企業が必ずしも日本企業より優れた「技術」を持っているわけではない。各国の政府が積み重ねてきた施策と、密接な対米関係によって、これらの国による型式証明が国際的に認められているのだ。

製造国として型式証明を承認せよ

総理官邸(画像:写真AC)
総理官邸(画像:写真AC)

 もし、日本という国が将来の旅客機製造に希望をつなぐならば、

「製造国として型式証明を承認」

し、安全性を外国に担保できる実力を、日本の行政機関が備える必要がある。このことは旅客機に限らず、現在注目を集めている「空飛ぶクルマ」においても同じである。

 日本のベンチャー企業がいくら優れた商品を開発しても、その型式証明によって安全性を担保するのは、企業ではなく行政機関の役割だ。このままでは、日本製の空飛ぶクルマは実用化されないまま、“見せ物”に終わってしまう懸念もある。

 かつてのMSJチーフエンジニアらが身を寄せたSkyDrive社では、同社の空飛ぶクルマSD-05で米国市場に切り込むべく、米国に拠点を置くことを発表した。同社は連邦航空局(FAA)の耐空証明取得に動き出しているが、航空産業における米国の覇権を

「追認するだけ」

では、日本の空洞化を食い止めることはできない。

全てのコメントを見る