全国1か月乗り放題! 「9ユーロチケット」がドイツ国民に与えた大きなインパクトとは

キーワード :
, ,
わずか9ユーロで、ドイツ国内のほぼすべての公共交通機関が1カ月間乗り放題になるチケットが、2022年に期間限定で販売された。そのインパクトと課題を振り返る。

自動車利用の抑制狙う

9ユーロチケットは券売機で購入可能(画像:橋爪智之)
9ユーロチケットは券売機で購入可能(画像:橋爪智之)

 このチケットの販売目的は、エネルギー消費の抑制にあった。ご存じの通り、ロシアのウクライナ侵攻はドイツ市民の生活にも影響を及ぼし、中でもエネルギーコストに深刻なダメージを与えた。少しでもエネルギーの消費を抑えるため、ドイツ政府はまず自動車の利用を抑制する目的で、特別割引の定額制乗車券導入を決定した。政府が各公共交通事業者へ対して補助金を出し、その代わりとして9ユーロチケットを販売し、極力自動車利用を抑えようというもくろみだ。

 こうした経緯があったため、当初はドイツ国内で通勤に車を利用している人に限定して販売する予定だった。だが計画は変更され、最終的には誰でも購入することが可能となった。もちろん、これは本来、ドイツ国民のためのチケットであるはずだが、外国人が購入することも許された。

 結論から言うと、この9ユーロチケットは政府の思惑通り、飛ぶように売れて、自動車利用者が鉄道を中心とする公共交通機関へと流れた。また、平日の通勤のみならず、週末の旅行についても、自家用車を利用していた人たちの多くが、鉄道などで移動するようになった。

 だが、問題がなかったわけではない。9ユーロというインパクトは強く、まさに飛ぶように売れたが、そのために一部の列車が、運行に支障をきたすような大混雑となったのだ。前述の通り、この9ユーロチケットは優等列車など長距離の都市間を結ぶ列車は利用できないが、近郊列車など地域間を結ぶものについては利用できる。

 REと呼ばれる快速列車は、短距離のみでなく、路線によっては、そこそこの長距離を走る列車もある。当然、週末の旅行に出かける利用者は、都市間移動にこの長距離REを使って移動しようとするわけで、こうした一部の列車に利用客が集中して、大混雑となったのだ。

 こうなることは想定していなかったのか、想定していても対応できなかったのかは分からないが、とにかく乗り切れないほどの大混雑で、安すぎるのも善しあしだと感じた。鉄道会社側からすれば、政府が勝手に決めたことで、どうして自分たちがその尻拭いをしなければならないのか、という思いもあったかもしれないが、それでも乗客が立ちっ放しで何時間も乗せられて、というのはあまり良い状況とは言えない。「もう鉄道は利用しない」と利用者がそっぽを向いてしまったら、それこそ本末転倒の結果となってしまう。

全てのコメントを見る