阿佐海岸鉄道DMVは、いつまでも「世界初」を売りにしてはいけない
維持費は鉄道の「4分の1」
というわけで、乗客数が低迷し、廃止寸前だった阿佐海岸鉄道の存続策として浮上したのがDMVだった。
冒頭で「本格的な営業運行は世界初」と書いたが、2006(平成18)年頃にはローカル線の新たな存続方法としてDMVは既に浮上していた。当初は、北海道のローカル線や熊本県の南阿蘇鉄道、静岡県の天竜浜名湖鉄道などもDMVの導入を検討していることがメディアに報じられている。
阿佐海岸鉄道は2008年、徳島県や地元の公共交通機関が参加する懇話会でDMV導入の検討を発表した。そして2011年、県議会で予算が認められ実証実験を行うことになった。
DMVが期待されたのは、鉄道に比べて
「維持費が4分の1」
になるという、圧倒的に安いコストからだった。また、観光資源としても生かせるので魅力的だった。さらに、阿佐線の鉄道空白地帯と接続した路線ができることも大きな要因となった。
この時点で、阿佐海岸鉄道は赤字に加えて基金も枯渇していた。開業時5億7609万円あった基金は、2011年に残高1324万円となっていた。DMVは最後の起死回生手段として期待されたのだった。
こうして実証実験を経て、阿佐海岸鉄道はDMVの本格導入を決定し、再スタートを切ることになった。役員が鉄道事業とは異なる詐欺容疑で逮捕される想定外のトラブルもあったが、開業後は順調に効果が出ている。
運行開始から2022年9月末までの乗客数は3万2816人で、コロナ禍前の2018、2019年の平均乗客数の約2万3600人を上回った。旅客収入も増えている。コロナ禍での開業にも拘わらず乗客が増えたのは、いうまでもなく「世界初」のインパクトだろう。ただ、依然として経営は苦しく、2021年度も連続赤字を更新している。
1周年イベントに1000人以上のファン集合
そのため、徳島県も黒字転換は想定しておらず、導入による地域活性化へとシフトしている。たとえ赤字運行でも、地域に役立つ路線としての価値をどのように持たせるかが、阿佐海岸鉄道の課題なのだ。
2022年12月に実施された開業1周年イベントには、県内外から1100人の鉄道ファンが集まった。しかし、いつまでも「世界初」ばかりやっていられないし、すぐに飽きられるだろう。DMVを目当てにやってきた観光客に、周辺地域がいかに魅力的であるかを伝えることが価値向上のカギとなるだろう。
室戸岬を除けば、四国のなかでも都市から遠く離れ、訪れる機会の少ない地域だ。裏を返せば、地元民ですら気づいていない観光の目玉が眠っているにはずだ。
「DMVでも見に、乗りに、ちょっと行ってみるか~」
この“ノリ”を呼び起こすことが必要だ。DMV頑張れ。ここがロドスだ、ここで跳べ!